第8章 Pandora
そう彼を語るシャンクスは、エースを真っ直ぐ見ているのに、誰か別の人を映しているみたいだった。先程までと違って声にもどこか熱が籠っている。
エースはと言うと、急な情報にただただ口を開けて、息を飲んでいた。
「2番隊の隊長の座は、ずっと空席だったんだ。」
それから赤髪は続けて教えてくれた。
おでんという人は、初め白ひげの船に乗ったらしいが途中でロジャーに引き抜かれたらしい。そしておでんはそのままロジャーの最期の旅路を共にし、 最後の島ラフテルまで到達したのだという。ロジャーの船に乗ってから、おでんが白ひげの船に戻ってくることはなく、ずっと空席のままにしてあったらしい
しかしエースの中では、“ロジャー”という言葉が頭の中で大きく反響していた。赤髪の話すロジャーという名前は尊敬と敬愛が満ち満ちていて、否定する訳では無いが、自分には到底認めることの出来ない感情だった。
そのロジャーと、血の繋がりを持った自分。2番隊隊長という共通点を持ち、彼の船に乗ったおでん。エースはそこに何故か不思議な縁を感じていた。
「俺はそんなことも知らずに、この隊を背負ったんだな」
エースは自分の手のひらを見つめ、そして握った。
知りたい、その人のことを。
俺が親父たちと白ひげ海賊団としてやっていくのなら、俺はその人が背負ったものを知りたい
「なぁ、赤髪。俺にその人のことをもっと教えてくれ」
エースは真っ直ぐシャンクスを見つめて言った。その目が、何故だかシャンクスの中で昔出会った小さなチエ を思い出させる。
「ああ、もちろん。島にたどり着くまでいくらでも聞かせてやるさ」
シャンクスは面白いものを見たように、口角を上げてまたエースの頭を撫でた。彼はもう懐かしむような目はしていなかった。