第8章 Pandora
シャンクスは浮かない顔をするエースに向かって続けた。
「どんな事情かは知らないが、あの一族のことを知っている人間は極わずかだ。だが、少しでもその力が顕現すれば必ず嗅ぎつけるヤツらがいる」
「遅かれ早かれ見つかっていただろう」と、赤髪は付け加えて言った。
彼の言葉でエースは一度深呼吸をした。チエ は確かに1人で抱え込むし、意地っ張りだし、こうと決めたら貫き通す頑固者だ。もし俺に言えなかったのだとしたら、それはチエ を責めるべきではない。
そして、もしヘイブンとのことがきっかけで力が発現したのなら、それはチエのせいじゃない。
突然あんな力が目覚めたのなら、たぶんチエ は戸惑ってる。誰にも不安を言えず、自分だけで抱え込もうとしている。
…ヘイブンと戦った時、俺すらも拒絶したあの翡翠色の電撃は、きっとあの時のチエの全てだったんだ。
全力の抵抗。心からの拒絶。
あの時ですら自分で抱えきれずに、でも他人も頼れずに、どうにも出来なくなっていたんだ。
でも、きっとこれは抱えきれないだろうから。
…だから、ジジイは俺のところへ来たんだろ。
1人で何とかしようとするアイツだから、無茶するアイツだから、誰よりも俺が助けたい。俺がアイツの──家族みたいな存在になるって、傍にいるって言ったから
海賊なりのやり方で。
攫ってでもいいから、今度こそちゃんと向き合いたい。
「俺は…ずっと、真正面から見ないようにしてたんだ」
チエが追いかけてきてくれて、俺を好きだから来たんだと思った。でも、多分そうじゃないんだ
海兵になって、見た目も、口調も変わってしまって
俺はチエが変わってしまったと思ったんだ。もう俺の事なんか好きじゃないんじゃないかって、
でもそれに気づきたくなかった。
船での立ち位置とか、俺自身が親父に対して貫くケジメとか面子とか、そんなことばかり優先して肝心なことは何も聞かなかったし話さなかった。
「でも、今度こそちゃんとアイツを見るよ」
俺はまだ、お前にちゃんと言ってないんだ。
ずっと心の中で呟いて、言うのを恐れてた。
拒まれるのを恐れてた。小さな路地で誰もが俺の事を認めなかったように…。
でも次はちゃんと、
──「好きだ」って伝えるんだ。