第8章 Pandora
【おつかいか?マキノなら今買い出しに行ったとこだ】
【じゃあ…待ってる】
カウンターの少し高めの椅子によじ登るようにして座ると、少女はじっと俺を見つめてきた
【それ、痛くない?】
指を指した先は自分の目元の傷だった。鉤爪で引っかかれたような三本の傷跡を見て、少女は眉を下げた
【もう痛くないさ。昔の傷だ。】
【そっか】
【嬢ちゃんは優しいな。名前はなんて言うんだ?】
【チエ 】
何となく、マキノが可愛がる理由がわかった。真っ直ぐ見つめてくるエメラルドの瞳に、たどたどしい言葉遣いが親心をくすぐる。
【俺はシャンクス。海賊だ】
僅かにだがチエ の目が見開き、輝いたような気がした。
【海賊は好きか】
【わかんない、けど……知りたい…!】
【いいぞ!教えてやる】
チエ を抱え上げ、自分の腕に座らせるように担ぐと、酒を飲んでどんちゃん騒ぎの仲間に向かって言った
【お前ら!俺たちの武勇伝を聞かせてやろうじゃねェか!】
仲間たちも意気揚々と語り出し、幾度と乗り越えてきた海での冒険について語った。外の世界を知らないチエ は目を輝かせて聞いていた
【おんもしれェ!!!もっと聞かせてくれよ!冒険の話っ】
仲間にしては、かなり幼い声。視線を下れば最近やたら懐く少年が足元にいた。
【ルフィ!また来たのか】
【なんだよ、今回の航海は連れていってくれる約束だろ】
【ちょっと、シャンクス!その子誰】
そこへ娘のウタも加わり、足元はすっかり賑やかになった。抱き抱えられたチエ は2人をじっと見下ろしていた。
【ん?なんだ?おまえ】
【シャンクスに抱っこしてもらうとか、100年早いんですけど】
ルフィとウタの視線がチエに向くと、ほんの少し肩が跳ねた。俺の肩を掴む手に力が籠る
【おれはルフィ。お前は?】
人見知りをしているのか、なかなか口を開けず2人の顔を俺の顔を見比べた。困ったような顔をして、口を開いたり、閉じたりしている
【…チエ 】
【おまえ、暗いなーー】
【!】
ルフィの悪気のない一言で、チエ はショックを受けたような顔をした。先程まであんなに表情が硬かったのに、子供同士なら、案外素が出やすいのかもしれない。
そう思って、あることを提案した