第8章 Pandora
それは、まだルフィが山賊の元へ来る前の話。
赤髪海賊団がフーシャ村を拠点としていた頃、彼らはマキノの酒場によく入り浸っていた。
【ごめんください】
賑やかな酒場に、扉が開く小さな音と、か細い女の子の声がする。それは宴会の最中掻き消されてしまうが、その子は気にすることも怯えることも無く、じっとマキノに視線を送っていた
【客かい?】
まだ気づいていなさそうだったマキノに、さりげなく聞くと彼女は慌てふためいて、カウンターから出ていった
【あら、チエちゃん!よく来たね!】
【こんにちわ】
その子は5、6歳くらいに見えたが、まだたどたどしさが残るあどけない口調で、見た目より幼く感じる。
マキノは随分とその子のことを可愛がっているようだった。
側へ駆け寄り、目線を合わせると、その子は精一杯お使いの内容を彼女に伝えた。
【そっかそっかぁ、、】
どこか嬉しそうに頭を撫でるマキノを見ながら、自分は酒を仰いだ。それをぎこちなくも受け入れる様を見ていると、まるで年の離れた姉妹のようだ。
彼女を抱き抱えると、それに気づいた誰かが叫んだ。
【えっ、、、マキノさん子供いたの!?】
その発言で、店の空気がわっと湧いた。店内には席を全て埋めつくすほどの客。その視線のほとんどが、抱き抱えられた少女に向く
【違います。この子はー…妹みたいなものかな?】
マキノは抱き抱えたまま、またニッコリとその子に笑いかけると、少女もぎこちなく口角を上げる。無理して笑っている訳では無い。これが、この時のチエの精一杯の笑顔だったらしい
【笑うの下手だな!!】
しかし当時の自分は、ぎこちなく笑う少女を笑い飛ばしてしまった。あとからマキノにその子の過去や発達の事情を聞いて悪い事をしたと思った。
その場はお使いを済ませて帰ったのだが、再びその子がお使いに来た。その時はちょうどマキノが買い出しに行っていて、赤髪海賊団しかいなかった。