第8章 Pandora
「んが、寝てた」
数分して起き上がったエースを見て、シャンクスはジョッキを床に置いた。
「それで、お前が急ぐわけを聞こうじゃないか」
寝惚けながら顔を擦るエースに、シャンクスは声を低くして聞いた。覇気は出ていないのに、空気がピリついた気がしてエースの眠気もどこかへ飛んでいく
「…俺の大事なやつの命が危ねェんだ。そいつを助けるためにオレはビブルカードを追ってきた」
カードを手のひらに乗せて、赤髪に差し出した。運良くその進行方向と船の進む先は一致している
カードを見てシャンクスは言った
「まだこの主の命は大丈夫だ。本人が死ぬ時、この紙も燃えてなくなるからな。まだその兆候はないが……」
エースの目を捉えた赤髪に先程までの陽気はなく、その目にはただ鋭い閃光が灯っている。気迫が増した彼を前に、エースは固唾を飲んだ
「このカードの進む先がどこか、知っているのか」
「いや……ガープのジジイにこれを渡されただけだったから何も」
「英雄ガープが?」
以前会った時に、ルフィと義兄弟であること、ルフィが英雄ガープの孫であることは聞いていた。しかし、今回エースが助けたいという人物もまたガープに縁がある人物なのか、とシャンクスは思い至った
「名前は、何と言ったか」
「チエ・ルノウェ 。俺たちと山賊の元で育った、…幼馴染、みたいなもんだ」
紹介するには明確な言葉が出てこなくて、曖昧に濁して言った。すると、シャンクスはベックマンと顔を見合せた
「もしかして、マキノの酒場にお使いに来てなかったか?」
「あ、ああ…たぶん、行ってた。そこでルフィとも知り合ったって聞いたし」
「あの子が……」
シャンクスは神妙な顔をして、考え込むように顎に手を当てた
「チエ を知ってるのか!」
「ああ。一度船に乗せたことがある」