第8章 Pandora
『そんなこと言われたって…』
本当に辿り着けるのか?
もし着いたとして、鍵の開け方は?
3ヶ月で力を制御できるようになるんだろうか
五老星はきっとこの力を手に入れるためなら何でもする。母を研究対象として監禁したように、世界のためだと思うのなら、きっとやる
島を見つけてしまえば、私自身が制御する方法を見つけられずとも、お抱えの科学者たちがやってきて調査するに違いない。
そして私は、母のように……
だめだ。
そんな未来、考えたらダメだ
心がたちまち折れてしまう
でもこんなオールもない船じゃ逃げられない。加えて足枷は鎖で繋がって泳ぐには心もとない長さだ。ましてや場所も分からない海のど真ん中で、放り出されてしまった。海王類や海賊に出会う可能性だってあるのに
『……っ、、』
どうにもできない現状。この雪辱を晴らす言葉さえ出てこない。行き場のない苛立ちのせいで強く下唇を噛む
(…こんなことのために海兵になったんじゃない)
ふつと沸いた言葉は、自分の奥に眠っていた熱を呼び覚ますように次々に湧いてくる
(エースの隣に立ちたいから)
見返して、そしてエースを守れるようになりたいから海兵になったんだ
その選択を後悔したくない。
負けたくない
その時チエの心は決まった。
『……っ、なに』
上下に揺れるだけの船がぐらりと揺れた。
まるで何かに船が押されたみたいな感覚だ。オールも帆も無い船で、そんなことは有り得ない。もちろん船の下を何かが通った訳でもなかった
不自然な動きに警戒を強めるが、辺り一体生き物の影もなければ気配もない。しかし海をのぞき込むとその理由がわかった
『潮…?』
船がいきなり不自然に動いたのは潮の流れに乗ったからのようだ
手を浸すと海水が一定方向に流れを生み出しているのが分かる。けれどそれは渦ではなく直線状況に動いている。まるで川みたいだ
こんなにわかりやすい直線の潮なんて今まで体験したこともない。
このまま乗っていても大丈夫なんだろうか
航海術は基礎的なことしかわからないが海面の異常や天候の乱れは見られない
あったとしてもオールの無い船では潮から抜け出すことはほぼ不可能だけど
……身を任せるしかないか