第8章 Pandora
私のことを置いて言った軍艦はとうに見えなくなっていた。もう軍艦が進んで出来た白波すら残っていない
周りには海しかないとというのに、まだ体は固まったままだった。
ただ足に付けられた枷の冷たさだけが、現実であると訴えかけてくる
これが付いている以上、逃げることは出来ない。
【お前の足枷には、Dr.ベガパンクに作らせた位置送信装置が組み込まれている。もし島に辿り着けず、逃げたとしても場所はすぐ特定される】
これは位置情報がわかるだけでなく、外すと爆発するらしい。天竜人の奴隷につけるものより強固で無駄に性能が高い
そして元帥が私に渡したのはこの足枷と、小舟のふたつだけ。小舟にはオールはなく、中には食料や船をつけるためのロープくらいしかない。
地図もログポースも、何も渡さないでどう島にたどり着けと言うんだ。
空は雲ひとつない快晴で晴れ晴れしているのに、私の頭の心はまるで逆。
考えることもやらなきゃ行けないことも沢山あるのに、体が言うことを聞かない。
オールすらないこんな小舟では、目の前に見える海の青い景色さえ変えることが出来ない。
この青の先に逃げることも、この力を使いこなすなんて無謀なことも私には出来ないと言われてるみたいだ
『…はは、』
どうすればいいのか、全く手も足も出ない。こんなに何も出来ないなんて、
呆れた掠れ声しか出てこない
自分が情けない
余計に自分を惨めにするのはこの両足に付いた枷
天竜人が奴隷につけているそれと酷似していて“奴隷“とさして変わらない自分の存在に笑えてくる
けれど零れるのはため息のような失笑ばかりで視線を低く落とした
『?』
すると視界の隅で何かが動いた気がして、顔を上げてみる。船の隅に置いてある食料か何かの袋だ。明らかにそれが、もぞもぞと動いて袋の形が変わっている
『な、なに』
「んきゅっ!」
中身が何かと身構えていると、なんとそこから出てきたのは愛鳥、ラルーであった。