第7章 追ひ人
そんなはずは、と言いかけて言葉が詰まる。白ひげの船から降りて、チエは海軍に戻ったはずだ。そこは元々チエのいた場所。敵船の中にいるよりよっぽど安全なはずなのに……
そこまで考えて、否定する。
敵船にいたからこそだ。
ただの敵船じゃない。今や海賊王の椅子の目の前にいる白ひげ海賊団から、無事に逃げてきたなんて誰も信じられないんだろう
素直に俺と馴染みで、白ひげにも気に入られたから船にいたなど言えるわけもない
「俺たちの船にいたから……」
ガープはすぐには否定しなかった。視線を低く落とすと、少し間を開けて「いや」と続けた
「それもひとつある。だが、それより重大な事だ。皆まで話している時間はない…!とにかく、今すぐ向かえ!さもなくば取り返しのつかないことになるぞ……!!」
「っ!」
これまで見たことの無い剣幕な顔。その切羽詰まった表情に、チエの身が危険だという実感が不本意にも湧いてきた
「なん、だよそれ」
それをわざわざ俺に言いに来たのか
英雄ガープでも、どうにもならないことなのか
……そんなことが、数多くあるわけがない。
ジジイがここまでするほど、本当に事態は緊迫しているんだ
「チエは今どこに……!!」
言い終わるや否や胸ポケットから何を取りだし、無理やりエースの手に握らせた
「このビブルカードを持っていけ。辿り着ける可能性はほぼ無いに等しいが、ないよりましだろう」
「は?どういうことだよ、チエは一体どこにいるんだ…!」
ビブルカードを渡しておいて、辿り着ける可能性はほぼ無いなんて、それはいったいどんな場所だと言うんだ
まさか、インペルダウンなんて言うんじゃないだろうな
しかも、俺たちの船に追いついてくるなんて海軍はやっぱり俺たちを陥れる気なのか
「どういうつもりだ、ジジイ!」
「もうわしの力じゃどうにも出来ねェんだ…!!!」
「っ、、」
俺の罵声を、いとも簡単にかき消したガープの怒声。俺の言葉はどこかへ引っ込んだ。
握りしめた拳が微かに震えている
こんなにも、余裕のないこの人を見るのは初めてだ
ガープは怒りに身を震わせながら、絞り出すように言った
「…お前だけが頼りなんじゃ。」