第7章 追ひ人
炎の出力を少しずつ上げて、かもめの船の方へ舵を切る
普段よりも炎の出が強い
チエの話だとわかってから、胸を叩かれるようだ。胸騒ぎとも違うような、妙な動悸を感じてエースは胸に手を当てた
軍艦のすぐ真横まで来ると、ストライカーから船に向かって勢いよく飛び上がる
じじいの船と言えど敵船。わざわざはしごを下ろしてくれるわけもない。ストライカーから真上に向かって飛び上がり、舷に着地した。
すると意外にも、そこにはガープ1人の姿しかなかった
「他の海兵は?」
「外に出るなと言ってある。」
同じ海兵のチエの話だと言うのに随分と徹底している。海賊であるエースを乗せるとなれば頷けるが、そこまで気の回る人間ではない
そんなふうに怪訝に思いながら、ガープとの距離を詰めた
「!」
ガープの間合いに入った刹那、彼の右腕が素早く、かつ強く唸った
「このアホめがっ!!!」
「いっっっでぇ!!!!」
ゴツンと鈍い音が辺りに響くと同時に、エースは殴られた頭を抱えて蹲った
昔、ゴムゴムの実を食べた弟を殴っているところを度々見かけたことがあったし、自分も殴られたことがあったから、ゴム人間にも通用する、それなりに威力のある拳骨だと知ってはいたものの……
いざ海賊になって、覇気というものを知ってからは、ガープの拳骨が覇気を纏ったものだと理解していた。しかしその理解と想定を遥かに凌駕する威力にエースは言葉を失った
子供の頃はどれほど手加減して殴られていたことか
「いきなり何すんだよ、ジジイ!!」
「お前を殴りに来たと言ったろう」
「言ってねェよ!!話があるって言ったのは殴る口実か!?」
「それは本当だ。時間もない、よく聞けエース」
思い切り殴っておいて、突然真剣な顔に変わるものだからエースも戸惑った。相変わらず海賊の自分より自由な男で調子が狂う。
エースは頭を覆った手を下ろして、向き直った。
ガープはじっとエースの目を見つめ、声を落とした
「…チエの命が、危ない」
「は……!?」