第7章 追ひ人
「じゃあ、尚更なんで船を降りたんだ。海軍じゃなくたって、ここでだって強くなれるだろ!この海でまた巡り会える保証なんてどこにもねェんだ…!!」
声を荒らげたのはエースでなく、サッチだった。新しく出来た弟分だけでなく、彼はチエとエース、2人のことを気に入ってしまったんだ
だからこその怒り。至極真っ当な問い。けれど、きっと本質はそこではない
「船を降りた理由まではわからねェさ。だが、涙の理由くらいは想像できる。」
イゾウは、真っ直ぐにエースを見つめて言った
「エース、チエは、お前に追いつくために努力してきたんだろ。なのに薬で無理やり女の弱みを曝け出されて、そしてお前はそんなチエを女として抱いた。」
「っ、」
イゾウの言葉は、エースの胸に真っ直ぐ刺さった。エースもチエが、昔と違うのはわかっていた。海兵になることが、どんなこともかも、なんとなくだけれど簡単じゃないことはわかってた。俺の事を追いかけると宣言した時から、チエが努力していることを理解しているつもりでいた
「お前がした行為はチエにとって、屈辱的な事だったんじゃねェのかってことだ」
畳み掛けるようにイゾウは言う
(……その通りだ)
怒りにも似た強い感情が、彼の中でふつふつ湧いてくる。もし、自分がチエなら、嫌だ。
(俺が世界に俺という存在を認めさせたかったように、チエは俺の隣に立てることを証明してみせたかったのかもしれない…)
女扱いされることは、チエにとって今までの努力を踏みにじるような行為と同じだ。その事に今やっと気づいた
チエを一番理解しているつもりで、全くわかってやれなかった。
……俺を、
この鬼の血を引く俺を認めてくれた、チエのことを
俺が認めてやらないでどうするんだよ
「「「!!!」」」
煙のようにゆらゆらとたなびいていた迷いが、一瞬形を持ったその刹那
船は大きな揺れと、轟音に包まれた
「なっ、なんだ!?」
「敵襲か!」
黙って部屋にいられる訳もなく、3人はこぞって部屋を飛び出した