第7章 追ひ人
「チエはそういうことをするやつじゃないってわかっちゃいるが、…結果的には、そういうとだろ」
そう、エースに言うサッチの声のトーンが末尾になるにつれて下がっていった。
「…………」
エースもそれを聞いて黙りこくり、部屋に沈黙が訪れる。
(………本当にそうだろうか?)
沈黙の中で、イゾウは思った
2人が両想いなのは明らかだった。出会ったばかりの俺たちが気づけるほどに。その想いは簡単に振り解けるものじゃないだろう。
それに、チエは自分の気持ちだけを優先させるような自己中な人間じゃない。この船に乗っている時、いつも自分の立場とエースの立場を考えた言動を取っていた。
俺たちにだってそうだ。
この船に海軍を良しと思わない輩は沢山いる。それを理解した上で、俺たちと穏便に過ごせる距離を保とうとしていた
たった数ヶ月でも、チエの思慮深さはこんなにも印象に残っている
まだ気になることがある
「なぁ、チエは媚薬を盛られていたんだよな」
「おう」
チエは、この船で気丈に振舞っていた。口調も厳しく、女らしさを見せなかった。見せようとしなかった
それはチエが、女であることを弱点だと感じていたからでは無いのか
だとすれば、海兵になってエースを追いかけるのも、ただ単に想い人を追う女の行為では無いはずだ
そこまで考えて、イゾウは1つの答えにたどり着いた
「……エース、チエはお前の連れ合いとして隣に立ちたかったんじゃねェのかい?」
エースはゆっくり顔を上げた。その表情は何かに気づき始めていた
徐々に見開かれていく目が、何よりの証拠だ
「ただ守られるだけの存在じゃなく、一緒に戦いたかったんじゃないのか」
「……!!」
エースが海に出た頃、チエを島に置いてきたことは知っている。その理由も。だが、あの頑固者なチエがそれで納得するはずもなかったんだ
チエは、自力でエースに追いつこうとしている。その手段が海兵になることだとしたら、
チエが求めているのは、エースの隣に立つための強さなのではないか。