第7章 追ひ人
女という生き物は、男に比べてよく泣く。行為中にそうなるケースも無くはない。だがエースにとっては引っかかることらしい
確かにチエが泣くところは想像が出来ないし、気に病むのも頷ける。
惚れた相手を泣かせたい男なんて、特殊なやつ以外居やしないだろう
「俺、経験浅ェから…チエにやな思いさせちまったんじゃねェかって」
それで経験豊富そうなイゾウのもとへ来たようだ。しかしその期待を向けられて、イゾウは少し参った素振りを見せる
見目がこんなせいか、男も女も寄ってくるし、色好みだと思われることの方が多い。だが実情はそう特別なことも無く、自分でも他人にどうこう言えるほどだとは思っていない。
しかし「頼られている」と思えば、新しく出来た弟分も可愛く見えてきた
「ちょ、ちょっと待てよ、お前ら事情があったとはいえ、やる事やってんじゃねーか!」
そこへ割り込んできたのは、隣で話を聞いていたサッチ。ずっと隣で百面相したり、うずうずと体を揺らしていたが、どうやら痺れが切れたらしい
言いたいことで沢山、という顔だ
「え、サッチ俺の部屋に来た時気づいてたんじゃねェのか?」
「予想はしてたが、お前はいつも上裸だから確信が持てなかったんだよ!」
紛らわしい格好しやがって
そう八つ当たり気味に言うと、エースはクエスチョンマークを浮かべながらも一言謝った
「ていうか、それってつまりヤり逃げされたってことじゃねェかよ!」
「!!」
エースの両肩をガシッと掴み、前後に強く揺さぶる。当の本人はハッとした顔をして目を見開いた
サッチの言う通り、世間一般ではこれを“ヤり逃げ”と呼んでいる。読んで字のごとく、体を重ねたあと音信不通になるという無責任な行為だ
一番心を寄せていた相手からそれをされた。そのことを今になって初めて理解したのだろう。それまで閉じていたエースの口がぽかんと開いた