第7章 追ひ人
尾行をするつもりは無かったのだが、エースが確実な足取りでどこかへ向かうので声をかける隙もなく、、
かと思えば、エースの足はある部屋の前でぴたりと止まった。
どうやら目的の場所は、イゾウの部屋のようだ
「ちょっといいか」
ノックと共に扉の前で名乗ってそう告げると、イゾウは扉を開けて中へ招き入れた。
(やべ、完全に声かけるタイミング失った─…)
両手を宙に浮かせたまま、どうしたものかと顔を出したり引っ込めたりしていると、入口の戸を閉めようとしたイゾウが曲がり角からひょこひょこと出る特長的な髪型に気がづいた
「そこにいるのは、サッチか?」
サッチの肩がびくっ、と肩が跳ね上がる。あちらからは見えていないものとばかり思っていた
隠れたままなのも変なので、頭に手をやりながら物陰から出る
「お、おおう。エースの様子が気がかりで……」
先に部屋の中に入ったエースは、サッチがついてきたことに気づいていないようだ。イゾウはチラリと部屋の中を見て、彼を招き入れた
*
「で、俺に相談ってなんだ」
そう易々と口を開く様子もなかったので、イゾウは自らエースに尋ねた。
エースは部屋に入ってからずっと床に目線を落としたままだったが、尋ねれば乾いた彼の口は薄ら開いた
「……俺、チエのこと抱いたんだ」
隣で聞いていたサッチは、ギクリとしたような顔をした。チエがいなくなったことに気づいたのもサッチだった
(…俺は怪我で寝ていたから、親父からの話があるまでわからなかったが)
様子を見るにサッチもその事を知っていたらしい
経緯を聞くと、チエがDr.ヘイブンに媚薬を盛られたらしく、発情を治めるために抱いたのだという。
「でも俺は、チエのことを惚れた女として見てるから、気を抑えられなかったんだ」
「なにかしたのか?」
「…別に、普通だと、思うけどよ、、」
急にエースの言葉が詰まり出した。しかしイゾウには、何となく先の展開がわかっていた。どうしてここへ来たのかも。
「泣いてたんだ。」
エースは俯いたまま、けれど1点に視点を固めてそう言った。
まるで目の前にその光景を映し出しているように、眉間に皺寄せて