第7章 追ひ人
「……やっと大人しくなったか」
部屋に差し込む月光の下に、1人の靴のつま先が照らし出される。
部屋には幾人かの黒装束の者たちが既に居て、現れた人物に膝をついた
チエの寝込みを狙った模様だが、まさか直前になって起きるとは思わなかったようだ
気絶させたことを不本意に思いながらも、その人物は新たに指示を出す。チエを秘密裏に運び出すつもりのようだ
意識を失ったチエに、黒装束の1人が頭から布を被せようとしたその刹那、
鋭い光の筋が、その男の手を遮った
「うぁっ、、ぐっ!!!」
ぼとっという、鈍い音と共にチエに近づいた男が腕を覆って蹲った。
何事だと、辺りは警戒心に満ちる
部屋には月明かりしかなく、黒装束のせいで事態がよりわかりずらい
しかし能はあるようで、誰一人として取り乱さずに光の原因を突き止めた
「…鎌です」
床には確かに白銀色の鎌が転がっていた。それも、かなり大きい。人の首どころか、胴体すら斬れるのではないかと言うほど、大きな鎌。
問題は、この鎌がどこから現れたのかということだ。
チエは武器の所持を禁じられていた。こんな大きな鎌を仕込めるはずがない
ならば誰かが持ち込んだのか。
だとしても、部屋に入った時その存在は確認できなかった。突然現れ、突然腕を切り落としたのだ
「一先ずそれも回収しろ」
「はっ、」
部下の1人がその鎌に触れようとした直前、
「!!!」
動いていないにも関わらず、鎌は月の光を反射して、消えた
いや、姿を変えたと言った方が正しい
光とほぼ同時に、暗闇の中で近づいた者の目を鋭い何かが引き裂いたのだ
狭い部屋では、黒い塊が動いたようにしか見えない。しかも、その動きは準備んで影を捉えるのでやっとだ
「なんだ、今のは…」
もう気配が消えている。この部屋にいるはずなのにいない。
チエの持つ力なのか
しかし、本人は気を失っている
まるでチエに触れることを拒んでいるかのようだ
しかし、気配もしなければ殺気もしない。
それならば、好機は今しかない
人が集まっても困る
「……今のうちに運び出せ」
数人の黒い影がチエをさらに袋に入れ、跡形もなく部屋から消え去った