第6章 折れた翼、落ちた羽
「キュウ…」
何故かしょんぼりした面持ちで、私の腕に体を擦り寄せる。
『何?慰めてくれてるの?』
「キュ」
小さな頭が下に動く。
この子は私の言葉も迷いも、全部分かっているみたい。それでいて傍にいようとしてくれる
『ありがとう。ほら、ラルーも食べな』
まだ残っていた実を枝から取って、ラルーのそばに置いた。
すると、目を輝かせて勢いよく実に飛びついた。きっとずっと食べたかったに違いない。
(自分の好きな物を、私に取ってきてくれたんだね)
本当にこの子は人間のようだ。自分が喜ぶものは、他の人も同じだと思っているところが余計愛らしい
『ありがとう』
「んきゅ、キュ!」
口の中にたくさん詰め込んでいた実を一気に飲み干して、ぱっと顔を上げた
人の子のように、分かりやすく喜ぶラルー。その顔を見て、つい自分も顔が緩んでしまう
しかし、ふと何かが違うことに気がついた
『ん?ラルー、その目…』
「きゅ?」
ラルーの目が、赤い
自身は何も気づいてないのか、首を傾げてこちらを見つめた。
普段は澄み切った青い海の色をしているのに、今は珊瑚のような赤い色をしている。少し鈍い色は、どこかで見たような色。それもついさっき……
ふと、手元の赤い実が目を引いた
『これ、食べたから……?』
この海には不思議なもので溢れているけれど、食べるだけで目の色が変わる実なんてあるのだろうか
だとしたら、私の目も赤いはず
そう思ってポケットに忍ばせた鏡を取り出す。身だしなみを整えるためのかわいい小物ではなく、任務の時に視界を広げるための剥き出しのものだ
『赤く、無い……』
しかし、その鏡に映るのは普段と変わらない瞳。赤とは真反対のエメラルドグリーンだ。ほかに異変もない
緑は赤を打ち消す色だと言われているけど……ラルーの瞳がこんなに変わるのなら、私のにも多少変化があっていいはず
鳥だけに作用する実……?わからない、、
『体に不調は無い?』
もしかしたら、何かのアレルギーなのかもしれない。元々白い羽根を持つラルーは、アルビノの可能性だってあるし、、
『今日はもうおしまい』
サッと実を取り上げると、ラルーはハッとした表情を見せ、すぐに羽をしなしなにしてしまった
心が痛むが仕方ない。ここはひとまず様子を見ることにしよう