第6章 折れた翼、落ちた羽
『…え』
5年
私は、エースを1年弱で見つけられた。それでも長く感じたのに、それよりもっと長い月日をかけて…そんな長い時間をかけたのに、見つからなかった
ずっと探していた人を、やっとの思いで見つけたのに、手遅れだったなんて……
ガープの苦悩がひしひしと伝わってくるのに、自分には母の記憶がないばかりか、実感も情もイマイチ湧いてこない。ガープへの同情はあっても、母の死に対してそれらしき感情は浮かんでこなかった
「アリエを施設から連れ出した海賊は、解散しちまっててな。その元海賊団の何人かずつから情報を絞り取り、最後にはお前の父親の元にたどり着いた」
つまり、それは私の父だった、あの人が母を連れ出した海賊……ということ。確かに、昔は海賊だったと言っていた
海に出ているところも、冒険の話も聞いたことはなかったけれど、本当だったんだ
「お前の親父は、ステルス海賊団を束ねる船長、マーデル・ロン」
『…マーデル、ロン』
思わず復唱してしまったのは、名前を知らなかったからじゃない。呼ぶ機会もなかったし、口にしたことがなかった。思えば、今はじめてあの人の名前を呼んだんだ
……確か、古い記録を見たことがある。
ステルス海賊団
ほとんどが隠密集団の塊で、それらに特化した悪魔の実の能力者も乗り合わせていたとか。しかし、次第に勢力は無くなり元々薄い情報が、より希釈されただけだった。そのせいで名前を聞くまで、思い出すこともなかったが、、
その海賊団を率いていたのが、私の父
そして、母を施設から奪い、私が産まれた…
『…………』
ふと、小さな芽が出た。
(母は、それを望んでいたのか)
海賊に攫われて、私ができるまでの空白。言葉を聞いて、並べて想像しても、そこに伴う感情が想像できない。
母にとって、あの飲んだくれで自分の子供に手を上げるようなどうしょうもない男は、どんな人だったのか
母にとって、私を身篭ることは…喜ばしい事だったのか。望んでそうしたのか
わからない
……私は、望まれて産まれてきたの?