第6章 折れた翼、落ちた羽
「お前の、ルノウェという名が何を意味しているか知っているか」
何故いきなりそんなこと
心の中でそう呟くけれど、そこにこれから話す大事なことがあるのだと悟った
『…知らない』
疑問に思ったことはある。普通姓が先で、名が後に来るのに私のはそれと逆だ
「ルノウェというのは、所謂種族を指し示したものじゃ。足長族や手長族のように、その種を区別する記号として付けられている」
『え、』
ルノウェは、区別する記号…?
まるで、家畜の識別タグのような言い方に、胸の中で嫌な予感がもくもくと広がっていく
「正式にはルノウェ一族と言ってな。お前の字名は本来“ チエ=ルノウェ “と書く。…まったく、胸糞悪ぃことを考えたもんじゃ」
ルノウェ一族の、チエ
普通の苗字だって、その家や人を括るものとしてある。けれど、これは一個体としての名前と言うよりは、ただ単に区別しやすく、種として重要視されているような気がした
ルノウェであるなら、名前なんてどうでもいい。そう暗に言われているみたいで、今まで普通に名乗っていた名前が、急に気持ち悪く思えてくる
しかし、その名前は単に気持ち悪いだけでは終わらないらしく、ガープはいつもより皺の多い顔のまま話を続けた。
「ルノウェ一族は、これまでの歴史の中で、表立って登場したことも無く、影に身を潜めていた。…にも関わらず、世界政府から古代兵器と同じような扱いを受けた」
『こ、古代兵器…!?』
プルトン、ポセイドン、ウラヌス
世界にはこの3つの古代兵器があるとされ、あまりに危険なことから、世界政府が一切の調査を禁じているものだ
海兵になって、この世界のこと…政治や経済、民族、地理……様々なことを勉強したが、古代兵器に匹敵する民族がいるなんて知らなかった。しかも、それが自分だなんて
「世界政府が確認しているのは、3人。1人は数百年前の古い記録。残りふたりはお前と、お前の母親じゃ」
『………母、おや』
そう言われても、母のことは覚えていない。母といえば、いつも父を怒らせるキーワードだったことくらいで、顔も声も、会った記憶がない
そんな人が、そして私が.....古代兵器に匹敵する人間…