第6章 折れた翼、落ちた羽
廊下でラルーを捕まえて、自室に戻った。
部屋は片付けられていたけれど、幸いなことに誰も使っていなかったので、そこを使わせて貰えることになった。
『ほら、ラルー。ここが私の部屋だよ』
と言っても、なんにもないが。
備え付けのベッドとクローゼット、机はどこの部屋もだいたい同じだ
けれどラルーは初めての場所に興奮した面持ちで、部屋を一周飛び回った
海軍本部に着いてからは、ずっと怯えっぱなしだったので、少し放していたのだけれど
ここはまだ私の匂いでも残っているのか、怯えた様子はなかった。
一息つこうと、ベッドに座った瞬間
「チエ!船を出すから着いてこい!」
鼓膜を破る程の破壊音と共に、ドアを文字通り蹴破ってやってきた。正体は言わずともわかるだろう。
『……はい、ガープ中将』
あまりにダイナミックな出会いに、初対面のラルーは完全に怯えきった
帆を張り、錨を上げて船は午後の海へと出航した。
ガープの船は独特で、船頭は骨を咥えた犬の頭になっている。軍艦の中でも一際大きな船だ
そんな巨大船を、たった2人で出航させ(ほぼ私にやらせた)ガープは悠々と舵を切る
『終わりました、ガープ中将』
入室の件で、ラルーがガープに怯えてしまうのでマストの上に避難させてきた。そして諸々の作業が終わり、ようやくガープ中将の元へと報告しに行く
本来ならば、30人〜50人がけで行う作業を1人でやらせるなんて、相変わらず無茶振りがすぎる御人だ
「おう。終わったか」
1度だけこちらを振り帰ると、舵を固定して船の先頭の方へ歩き出した。何かあるのだと思って、私も黙ってついて行く
「ほれ、よく海がみえるじゃろ」
『…う、ん』
急に口調が柔らかくなって、中将から祖父の顔が相見える。小さい頃から変わらない、優しい顔
「白ひげの船はどうじゃった」
『…良くしてもらった。海兵なのに、みんなエースの馴染みだからって。白ひげにも、度胸があるって褒められた』
「はっはっは、あの男に気に入られたか。さすがわしの孫じゃ」
頭を鷲掴みして、力強く撫でてくる。
昔っから変わらない、そういうとこ
堰き止めていた涙が、なんの前触れもなく溢れ出してしまう。変わってしまったものばかり見ていたせいか、ガープの変わらない優しさが今日はとても痛い