第6章 折れた翼、落ちた羽
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船に乗って5日
漠然とした不安は消えないまま、ついにこの日を迎えた。
目の前には、円系の港とそれに沿って配置された砲台。その中央を切り開くように軍艦は中へ進軍する
「さぁ、数ヶ月ぶりの本部だ。」
イスカさんに背中を押され、ハシゴを伝って地面に降り立つ
ずっと波に揺られていたせいか、体がまだ揺れているような感覚だ。当たり前だけれど、思っていたより陸は揺るぎなく、強固だった
帰ってきた。またここに
海軍本部の入り口を目の前にして少し固まる。右手に持った白い箱には白ひげに譲ってもらったDr.ヘイブンの首が入っている。意識すればするほど、重さは増し、逃げるように視線を門へ向けた
数秒固まっていると、内側からひとりでに門は開いた
それはいつになく険しい顔をした恩師が、一人で開けたらしかった。
『ガープ、中将…』
何も言わずに、こちらへ向かってくる。その数秒が、随分長く感じた。任務で数ヶ月合わないことはざらにあったのに、すごく懐かしく感じてしまう
いつもと同じ、真っ白なスーツを身にまとい、変わらない歩幅で私の方へ足を伸ばす。そして、その足は私から2歩開けた距離まで到達した
いつもの私たちの間合いだ。この距離で上司と部下の話をしたり、殴られたりした
しかし、ガープの足は止まるそぶりもなく、それを踏み越えた。
普段と違う流れに、一瞬思考回路が止まる
『!』
「……よく、帰ってきた…!」
気づいた時には、真っ白な肩が目の前にあった。体は締め付けられながら、ガープの方へ引き寄せられる。
力強く、自分よりも何回りも大きい体。老体とは思えない腕の力に、体の奥から何かが溢れだしそうになる
( 帰って、きた…… )
ここに来るまで、この瞬間まで抱えていた不安や葛藤が、両手からいとも簡単に離れた。ちらりと視線を移してみても、片手に握る白い箱の持ち手は、変わらず手の中にある。