第6章 折れた翼、落ちた羽
あの賑やかな場所から、またこの灰色の世界に戻る。それは自分が選んだことなのに
これからまた一人で戦う日々がやってきて、常に地位を争う競争の世界で、私は大事な人を大事と言えないような、薄情な人間に戻ってしまうのだろうか。
『.........さみしい』
いつの間にか口にしていた、小さな小さな気持ち。ひとりじゃないと分かったからこそ感じる、孤独感
胸にぽっかりと穴が空いたみたいだ。何になりたいのか、何をしたいのか自分じゃ全く分からない。頭の中にも、心の中にも、あるのは真っ暗な虚しさだけ
ヘイブンに体を弄られてからというもの、私は可笑しくなってしまったのだろうか。前は目標があって、それがいくら漠然としていても信じて突き進んでこれたのに。
痛みにも疎くなった。ラルーの爪の傷も、気づいたはずなのに怪我したことを忘れていた。深い傷ではなかったとはいえ、出血もしていたし、普段なら決して記憶から漏らすことはないのに頭からスッポリと抜け落ちていた。どうして忘れていたのか不思議なくらいだ
やはりあの時、身も心も改造でもされてしまったのでは…
そんな自分が自分ではないような、漠然とした不安が付きまとって消えない。
もし、あのことがきっかけで、私の何かが変わってしまっていたら。そのせいで、今こんなにも悩んでいるとしたら
……なんて、現実逃避しすぎだろう。これは紛れもなく、私の心の問題だ。きっかけは何にせよ、今の私はとてつもなく不安で、脆くて、弱い。
頭でわかっていても、心は変わらない。
切り変えるために何をしたらいいのか分からない
ただぼんやりすればするほど、エースの顔が浮かんでくる。
暗がりの中、私を抱いた彼の表情はとても複雑だった
困っているような、動揺しているような、怒っているような、悲しんでいるような、喜んでいるような
何展もする彼の瞳が、朦朧とした意識の中でも鮮明に残っている。そんな複雑な思いをさせて起きながら、私はあの時ほんの少し優越感に浸っていた。
今、目の前にいるのは私で
エースを困らせているのも私。
触れるだけじゃない。考える先にまで私が全部干渉しているようで、その時だけは独り占めできたようで…。
なんて浅はかで、不埒なんだろう。
思い出す度、自己嫌悪の海に溺れそうになる。