第6章 折れた翼、落ちた羽
『あ、イスカさん置いてきた』
すっかり夢中になって追いかけていたせいで、いつの間にか街の外れまで来ていたらしい。イスカさんを待っていたのに、私が突然いなくなっていたら驚くだろうな、早く戻らないと
『おまえ、怪我は大丈夫?』
言葉がわかるのか、羽を広げてすっと怪我した足を差し出した。利口な子だ
勿体ないけれど、シャツを勢いよく破り、怪我した前足を縛る。これで止血にはなるだろう
肩に乗せて、来た道を急いで戻った。
「あっ、どこに行ってたんだ!」
『すまない……って、一応聞くけど、それなんだ』
元いた場所へ走って戻ると、そこには飲み物を持って待ちくたびれたイスカさん……ではなく、競売主とその部下を締め上げているイスカさんがいた
「ん?これか。こいつら、違法の密売人らしくてな。丁度とっ捕まえたところだ」
……前々から思っていたが、この人は悪事に鼻が利きすぎじゃないだろうか。イスカさんによってお縄についた密売人たちは、すっかり意識を手放している
とりあえず、一件落着。
と思いきや、
「その鳥…めちゃくちゃ怯えてないか」
『ほんとうだ』
肩に乗せてきた隼が、私の頭の影に隠れようとぶるぶる震えているのだ
『怖い思いをしたんだろう。こいつらから逃げてきたのを保護していたんだ』
「そういうことか。そろそろ時間だし、こいつらを早く片付けて船に戻ろう」
隼をマントの中に隠してやると、気絶した密売人らを担ぎ、2人は歩く。隣を歩くイスカさんは、この島の治安に対してぶつくさ文句を言っていた。
いくら海軍の補給地だろうと、闇は常に存在する。私たちはモグラ叩きの繰り返しで、骨が折れるばかりだ。
盗み、詐欺、殺し……千差万別な悪に対して、私たち海軍ができることは逮捕のみ。拘束とやむを得ない負傷だけが許されている。正当防衛として相手を死に至らしめたとしても、罪には問われないが、それは正当な方法とは言えない。
卑劣な悪と同じやり方は、裁きにはならない。私たちは法の元へ悪の首根っこを引っ張りださなければならないのだ。
これが、海軍に入隊して初めに習う基礎的なルール。位が上がるにつれて、実力行使の人が多くなるがこの縛りをきっちり守る人もいる。