第6章 折れた翼、落ちた羽
海軍に戻ってきてからというもの、頭の中は暗くネガティブなことばかり。今も、エースのことを思い出しただけで、しんみりした気持ちでいっぱいになる
はぁ、とひとつため息をこぼした時だった
バサッ
視界の端を掠める白いもの
「おいっ、誰かその鳥を捕まえろ!!」
「大事な商品だぞっ、逃がすな…!!」
地下の店から大柄の男2人、顔を真っ青にして飛び出してきた
彼らの視線の先を見ると、先程掠めた白いものがはるか空中を飛んでいた。
白銀の翼を持った鳥だ。
珍しい羽の色で、もしかしたら地下の競売にかけられていたのかもしれない
その時は、ただなんとなくだった。
この島での競売は禁止されているとか、地下で何が売られているのかとか、そんなことは露知らず
ただ何となく、その鳥を追いかけた
その鳥は、よろめきながらも、毅然とした様子を見せつけて飛んだ。月歩で屋根に登り、その鳥の真後ろを追うと、ぱたっと何かが頬に垂れる
(血……)
怪我をしているんだ。
無理やり枷を外したのか、血が垂れるほどの怪我をしている。なのに弱みを見せないよう飛び続ける姿を見て、何故か自分の背中を追いかけている気になってきた
怪我をして、上手く飛べない。それなのに強がって、逃げて、今にも堕ちそうになっている
はたと立ち止まり、飛ぶ姿をじっと見つめた。鳥も、追いかけないのを不思議に思ったのか、くるりと1周旋回した
『ねぇ、私のところにおいで』
何も巻いていないが、そんなことお構い無しに腕を差し出した。
何となく、自分に重なる
そんな漠然とした理由で体は動いていた。
鳥はぴたりと煙突の先に止まり、こちらを見た。
後ろに競売の男たちは追いついてきてない。屋根の上には、私とこの鳥だけだった。
静かな時間が流れて、それまで止んでいた風が私に向かって流れた
その一瞬。
鳥は風に乗り、私の腕に止まった
『おまえ、隼か』
白銀の羽と、澄んだ青い瞳は普通の隼とは一風違って見える。なるほど競売にかけられるのも頷ける。
こんなに綺麗な鳥がいたなんて。