第6章 折れた翼、落ちた羽
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カモメのマークが慌ただしく動き、船の上では着陸に向けて準備が進められていた。
帆をたたみ、錨を下ろす準備に着く。司令官の掛け声ともに兵士たちは一斉に動き、軍艦はその場ゆっくりと停止した
ここは本部への帰路の中間地点
ハータル島
春から秋にかけてのスパンを繰り返す温暖な島で、年中作物が取れることから軍の補給地点にされている
私は特に仕事もなく、ぼんやりと船の上から忙しなく動く兵士たちを見ていた。そこへイスカさんがやってきて、太陽のような笑顔で言った
「チエ、一緒に見て回らないか?」
笑った顔が、エースと重なる
……ほんと、腹の底から明るいところがよくお似合いだ
『…わかった、すぐ支度する』
(自分で言っておいて落ち込むとか、卑屈)
げんなりとする気持ちを抑えて、船を下りる。イスカさんはどこかわくわくした面持ちで、少し先を歩いていった
「前にこの島に1度だけ来たことがあってな、
串焼きがすごくうまいんだ!」
『へぇ……私はこの島初めてだ』
「じゃあ、補給が終わるまで堪能しよう!うろ覚えだけど、案内するよ」
ありがとう、と笑って返すけれど、私はちゃんと笑えているのだろうか
イスカさんに連れられて、串焼きの屋台や武器商人の店を回り、露店での買い物を楽しんだ。そうしてしばらく回った後、少し休憩しようと言って、イスカさんは飲み物を買いに行った
…本当にエースとよく似ている
心の底から楽しみ、笑い、他人を巻き込んでいるとは自覚せず、巻き込まれた仲間すら笑ってしまうような、豪快でハツラツな人
それに加えて、イスカさんは度々出くわす万引きやスリも見逃すことなく捕まえた。スカルから聞いていた通り、正義感もあつい。
…片やおかしな身体を持つ卑屈人間と、片や底なしの明るさと正義感を持つ人間
万人が万人、後者を選ぶのだろう。
……いや、万人に好かれなくてもいいんだ。私は、ただエースのそばにいたかっただけなんだ
エースの笑ってる顔を、守りたかっただけなんだ