第6章 折れた翼、落ちた羽
【ねぇ】
【あ?】
ぼんやりと星を見つめていると、同じくぼんやりとした声がして、自分も普段より腑抜けた声で返事をする。何故だか、そういうのも悪くないと思えているのだ
【次流れ星流れたらさ、何お願いする?】
(チエは何を願うんだろう……)
真っ先に浮かんだのは、自分の願いなどではなくチエが何を願うかだった。ハッと我に帰って、質問を思い出して考え直す
自分の願い。そんなもの具体的に考えたことがなかった。漠然と海賊になることは決めていた。自分の育ちの悪さは自覚しているし、海に出て、冒険したい気持ちもあった。ただ漠然と、自由そうだからという理由だ。
けれど改めて考えてみると、ただ冒険するだけじゃつまらないなと思う。男に生まれたからには、力に屈する訳には行かない。俺が海賊王の息子だと世界が知っても、その圧力に屈したりせず、むしろこの世界に俺を認めさせてやりたい
【…俺は、自由になる】
誰にも文句は言わせない。理不尽な圧にも屈しない。自由な海で、誰よりも自由に生きる。
初めて自分の中で区別が付いた気がした
ロジャーとの血の繋がりをずっと引け目に感じていた。けれど、前に言われたチエの言葉で俺とロジャーは別の人間だと区別がついた。そうして改めてやりたいことを考えると、しがらみから抜け出した俺にはなんでも出来るような気がした
【チエは?】
【私は……】
チエは空を見つめたまま固まった。考えている時、チエはよく固まる。
って、また俺はチエのことを……
気づけば自分の頭の中にチエがいるなんて、自分でも信じられない。少し前の俺が知ったら、どんな反応をすることか
【今の幸せが続きますように、かな】
その答えを聞いて、思わず拍子抜けしてしまった。自分の野心的な願いとは違い、なんて慎ましい願いなんだろう。
思い返せばチエが我儘を言ったことがあったろうか
【……お前、欲ねぇのかよ】
【え?】
【もっと、こう…強くなりたいとか、ルフィじゃねぇけど、海賊王になりたいとかさ】
答えを求めて隣を見つめると、チエはゆっくり空から視線を外してこちらを見た。