第6章 折れた翼、落ちた羽
風呂から上がると、広間にチエの姿はなく、ダダンが1人飲みしているところだった
【…チエは?】
【“上“に上がったよ。珍しいじゃねぇか、おめェがチエを気にするなんて】
【別に】
大雑把なようで、意外と人を見ているものだ。あからさまにチエを敬遠していたわけではなかったが、そこまで仲が良くないことくらいは見抜いてたらしい
余計な詮索をされる前に、そそくさとその場を立ち去り、外へ出る。“上”というのは2階ではなく、屋根の上のことで、そこへは外の梯子を使う
軋む梯子を伝っていくと、屋根のど真ん中にチエは寝そべって空を見上げていた。どうして、ここに来たのか。これと言って理由はなかった
ただ何となく、足が向いた。それだけのことだ
【風邪引くぞ】
特に用もなかったので、そんな言葉しかかけることは出来なかった。
【……今日はやけに心配性だね】
しかし、何気ない一言にチエは目を見開いて答える。その時だけ視線は空からこちらへ向いたが、俺が反論する前に視線を戻して言った
【ちがうか。別に今日だけじゃないよね。案外優しいとこあるし】
【なっ…!!】
思わぬ発言に、屋根からずり落ちそうになる。自分でも知らないような一面をチエに言い当てられるとは思っても見なかった。こいつも、俺に関心がないものとばかり思っていたのだ
【あ、流れ星】
【……見逃した】
チエが言い終わる前に空を見上げたが、本当に一瞬の出来事で見逃す。
【そんなとこにいるからだよ。こっち来る?】
ようやく俺の方を見て、そう言うからそれまで何となく気分が良くなかったのが、急に良くなる気がした。自分がまるで、すぐに機嫌を変えるルフィのようで眉間に力が入るが、黙って隣に寝転んだ。
寝転んでしまえば、視界は満天の星空で埋め尽くされる。背中にあたる瓦の感覚さえも、この星の光に劣って感じないほど。それぐらい夜空に惹き込まれてしまった