第6章 折れた翼、落ちた羽
(俺が…チエを、好き……)
その単語の羅列が頭の上を何周もしているうちによくわからなくなってくる。好きってなんだ?なんで俺はチエが好きなんだ?
家に入るまであと数歩なのに、足取りは重くなってくる。考えれば考えるほどわからない
【おかえりなさい、エース】
【っぐ、お、おう】
そんな頭の中を一気に現実世界が引き戻す。ひょっこりと入口の暖簾からチエが顔を出して笑う
(うわ、また)
血管に血の塊が通って、胸の辺りでつっかえるみたいに、心臓が大きく跳ねた
その笑った顔を見ると、声を聞くと、こうなる
もたつく足のまま、家の中に入るとチエが大きな鍋を運ぶところが目に入る
【持ってくのか?】
【う、うん。ありがとう】
別に、よたよたしてたから気になっただけだ。中身をこぼして、お前が火傷でもしたら大変だから代わった。それだけのことだ
【エース、眉間にしわ寄ってる】
【お前が1人でこんな重たい鍋運ぼうとするから!!】
こっちは大真面目なのに、どうしてかチエは一瞬目を丸くして笑った
【ありがと、心配してくれて】
【っ、!】
胸をグッと鷲掴みにされる、この感じ、、
心配、これが心配ってやつなのか。でも、この感じはそれだけじゃない
もっと特別な、なにかだ
【ごちそうさま】
隣で手を合わせる姿をみて、自分も立ち上がる。ルフィは食い終わってすぐに風呂へ走っていったが、その間もチエは静かに食器を下げていた。
その日だけじゃない。毎日、俺たちの気づかないところで支えてくれている。
(あぁ、そうか)
俺はこの時、初めて自分の人生に、誰かが関わっていると自覚した。
……自分は、案外ひとりじゃないのかもしれない。
いつの間にか、どん臭くて泣き虫な弟も、気を許した友も、そして気づけば一番近くにいた彼女も、そんな風に思わせてくれる大事な存在になっていたのだ
【おせーぞ、エース!】
【うるせェ。さっさと洗え】
大事な存在とはいえ、自分が他人に優しく振る舞う姿なんて気持ち悪くて想像すら出来ない。
けれど、俺なりの方法で大事にしたい。そう思った。
……大事にするってことの正解を知らないけれど、コイツらといるとわかる気がするんだ