第6章 折れた翼、落ちた羽
【みんなー、ご飯できたよ】
チエの飯は本当に美味い。呼び鈴のようなこの声が響けば、全員余すことなく席につき、誰一人として遅刻はしない。料理をしているいい匂いが立ち込めてくると、出来上がる30分前だろうが、ほぼ全員家の中で待機する
【いただきます。】
周りが荒々しく食事にかぶりつく中、チエは決まって手を合わせてから食べる。同じ山賊に育てられたのに、どこで覚えてきたのか
【…それ、いつも言ってるよな。自分で作ったのに】
【うん。小さい頃、あの人がまだ言葉もろくに話せないのに、これだけは絶対させてた。今考えても、本当におかしな人だよ】
チエの言うあの人というのは、チエを虐待していた父親のことだ。ろくな人じゃなかったと以前語っていたが、時折こういった作法を教えたそうだ
実の父親を恨んでいる俺とは違い、チエはチエで、父親に対して複雑な気持ちを抱いているらしかった
【何だかもう体が覚えちゃって。それと、やっぱりご飯は大事だし】
【お前ここ来た時ガリガリだったもんな】
【覚えてるの!恥ずかしいなぁ…】
頬を両手で包んで、そんなことを言うのがあの時は胸にキュンと来て、最初の頃は病気かと思った
【…なぁ、サボ】
【あ?】
【俺、病気かもしれねェ】
【えっ、はぁ!?なんの!】
【わからねェ…。けど、最近胸が変なんだ】
自分の服ごと胸の辺りを掴むけれど、今は苦しくもなんともない。しかも痛いと言うより、少しばかり締め付けられるような変な感覚なのだ
【あ、エースとサボ】
【ッ!】
下の方から、聞き慣れたはずの声がして、ドキンと心臓が固まる