第6章 折れた翼、落ちた羽
船は出港し、エースはと言うと、あれからぼんやりと海を眺めることが多くなって、船に来たばかりのころ背中を預けていた船縁に、今日ももたれかかっていた。
「チエは、なんで海兵を選んだんだろうな」
そこへサッチがやって来て、冷たい瓶を差し出す。
エースの心の中を、そのまま口に出したような問いかけで、瓶を受け取る手が一瞬止まる。
「…さぁ」
何も無いような振りをして瓶を受け取ったが、飲む気になれず栓を開けずに傾けた。
今のエースには、その答えがわからない。
海軍を捨て、この船で白ひげ海賊団の一員として生きる選択肢があったのに、チエはそれを捨てて軍へ戻った。
誰よりもチエのことを理解しているつもりで、そうではなかった。その現実を突きつけられて、返事は自信のない声になる
──チエはこの船に乗って最初の頃、自分を追いかけ、捕まえるのだと宣言した。
女として見てくれなくてもいい。ただ傍に居たいから、それだけの力をつけるのだと。
それはつまり、海賊である俺の傍にいるために、足でまといにならないようにしたかった……ということだと思っていた。
チエもまだ好きでいてくれていると胡座をかいていた。…安心していた、、のかもしれない。
チエの心をまだ自分に縛れていると、勝手にそう思っていたのかもしれない。
…初めからチエは誰のものでもなかったのに
「もし俺がチエだったら、好きなやつと一緒にいられる道を選ぶがなぁ……」
ぼそりと独り言のように呟いて、しまったと顔を歪める。確かにサッチの言う通りだし、その通りなら、チエはもう、俺の事を好きでは無いのかもしれない
…否定できるほどの自信が、今はない。
身体だけが繋がったあの夜、チエは泣いていた。泣きながら、ずっと俺にしがみついてた
その涙のわけも分からず、夢中になって抱いた自分が恥ずかしくなってくる。正直、あんなに余裕が無くなるなんて、知らなかった、、
全く女を抱いたことがなかったわけじゃない。けれど、仲間に勧められてそういう店に入ったくらいで、どの島に行ってもチエ以外の女を求める気にはなれなかった。
本命の女は、こんなに違うのかと自分でも驚いたくらいだ