第6章 折れた翼、落ちた羽
自分の体には、何かある。
説明のつかないような出来事が、次々起こった。
白ひげの船で、エースが海に落ちた時も縄が何もしていないのにぶつりと切れていたり、無くなった腕が目覚めた時には戻っていたり。
最初はDr.ヘイブンが、そう言った類の幻覚を見せる薬でも盛ったのだと思った。
けれどよくよく思い出せば、アイツは私のことをワンピースよりも貴重で、ずっと探していたと言っていた。
私が心の底から拒絶した時、あの雷鳴のような光が辺りを覆ったのも、私の中にヘイブンが探し求めていた何かがあるからなのだろうか
「どうかしたか?」
『っ、』
考え込んでいると、唐突にイスカさんから声をかけられ、肩を跳ね上げる。顔を上げると、彼女は不思議そうにこちらを見つめていた。
『……この世界に悪魔の実の能力以外で、特殊能力を持つ人間が存在するんだろうか』
私は素直に尋ねることにした。イスカさんの方が海兵として長いし、何か知っているかもしれない
「うーん、私も詳しくはないが、噂ではそういうリストがあるらしい」
『リスト?』
「あぁ、表には知られていない能力者の一覧だったかな。中には危険な能力も存在するらしいから、その人物が危険でないか管理するために必要なんだろう」
イスカさんでも、あまり詳しくないみたいだったが、その噂が本当なら、私もそのリストに載っているんだろうか
あの時以外、体は普通だ。気持ち悪いくらいに、異変がない。私自身は何も変わらないのに、急に自分の体が別のものになったように感じる。ヘイブンに弄られたせいか、自分の体が自分のものでは無いみたいだ
「…さっきから難しい顔ばかりだな。今日は早く休め。」
『そう、だね。ありがとう』
書類をサイドテーブルに上げたまま、そのままベッドの端へ寝転んだ。
シーツの擦れる音は、昨日の交わりを思い出させる。腕や背中が熱くなって、顔に熱が集まるのがわかった。イスカさんに見えないように顔まで布団を被る。
忘れたい。けど、忘れられない。
どうしても思い出してしまう。
喜んでいる自分と、惨めな罪悪感を感じる自分がいて、頭の中はすぐにごちゃごちゃになる。わかっているのに、頭の中はエースのことでいっぱいだ
ちゃんと、海兵の仮面をつけると決めたのに。
戻ると、決めたのに。
…私の心は、まだあの船にあるみたいだ