第6章 折れた翼、落ちた羽
船が出航して、もう一日が終わろうとしていた。私の船での役割は特になく、体を戻すために鍛えることくらいしか無い。
本部のあるマリンフォードまでは、約5日かかるそうで、明日の夜には食料を補給するために島に立ち寄るそうだ。
「隊長、お疲れ様です」
船縁に腰掛けていると、横から顔を出すガシュトル。
未だに隊長と読んでくれることは嬉しいが、今の私は隊長には相応しくない。
『隊長と呼ばなくていい。お前の隊長は、別の人だろう』
「……ですが、チエ隊長も、隊長に変わりありません。俺は尊敬しているので」
少し考えて、再び口を開くと、彼はそんな風に答える。律儀なのがいいところだったと思い出す。
ほんの少しの間ですら長い沈黙のように感じるのは、白ひげの船が夜だろうと昼間だろうと騒がしかったからだろう。ここが随分と静かな場所に感じる。
『それで、何か用か?』
「いえ、偶然見かけて。それに、再会したのに隊長は相変わずクールなので」
なので、なんだと言うのか。疑問に思って振り返ると、ガシュトルはじっとこちらを見つめていた。
月の薄ぼんやりとした光で、ブラウンの瞳が透けて見える。こんなにも、真剣な眼差しを向けられたことがあっただろうか
……あの鯨の船の上で、彼はこんな風に私を見てくれただろうか。
そんなことをぼんやりと思い浮かべて、首を振る。
『……もう寝る。お前も早く休め。』
さっと船縁から甲板へ降り、ガシュトルの肩を叩いた。そのまま背を向けるが、ガシュトルは何も言うことはなく、私もイスカさんの部屋へ戻る。
「夜の散歩か?」
部屋に入るなり、イスカさんは書類から目を外してこちらを振り返った。恐らく、今回の任務の報告書だ
『まぁ、そんなところ。そっちは?』
「見ての通り、デスクワーク。今回の任務の報告書だよ」
予想通りの答えを、特に驚きもせず聞いてベッドに腰かける。イスカさんはペンを置いて両手を天井に向けて伸ばした。
『見てもいいか?』
「いいよ」
書き終えた2、3枚を受け取り、目を通す。
今回の目的は、Dr.ヘイブンおよびその仲間の捕獲。作戦内容としては、Dr.ヘイブンと共闘して白ひげの首を取ると見せかけて、Dr.ヘイブンを狙うものだった。