第6章 折れた翼、落ちた羽
「…ハァっ、ハァ、」
息を切らして走るのは久しぶりだ。
それくらい全力疾走で港まで来た。
もう太陽も顔を出して、漁船が港に出入りして賑わっている
けれどそこに、見慣れた軍艦はなかった。
足跡はここで途切れていた
遅かった。
間に合わなかった
頭の中で直接鐘が響いている気分だ。うるさすぎて頭が働かない。
ただ呆然と、砂浜で立ち尽くすしかなかった。
(…あ)
そこでようやく、自分がチエにした仕打ちがどんなものだったのか気づいた
好きだと言ってくれた。
だから一緒に連れて行ってと
それを自分は、独りよがりな選択でチエを島に置き去りにした。それが正解だと思い込んで、置いてきた。
(今の俺は、あの時のチエと同じなのか)
置いていかれたと、心が泣いている。
どうしてと、心が叫んでいる。
お前も、俺から離れていくのか。
俺が海賊王の息子だから……
そんな理由でチエが、離れていくわけが無いと分かっていながら、いなくなってしまった理由を探し求めてしまう。
自分の傍に、もうチエがいないという事実を、受け入れたくなくて、ここまで走ってきた。悪足掻きだと、頭のどこかでわかっていても納得したくない自分が思考のほとんどを占めている。
チエも、そう思った結果海兵になると決めたのだろうか。
納得したくなかったから、せめてもの悪足掻きと思ったのだろうか。
自分は、今、どうしたらいいのかなんて思いつかない。ただ溢れてくるチエへと気持ちを抑えるのでいっぱいだ。
(……俺は、、初めてお前を置いていったことを後悔してる)
ただ、好きだと言えたなら
ただ傍にいることが出来たなら
どんなに楽だったのだろう
海賊になったことに後悔はない。けれどその選択が、チエを海兵にさせてしまったのなら、自分からチエを手放したあの日のことを、どうしても悔いてしまう。
どうすればよかったんだ。
好きとすら言えないまま、また離れ離れになるのか
追いかけることすら、もう出来ないのに。
この行き場のない思いをどうしたらいいのか分からなくて、苦しい。