第6章 折れた翼、落ちた羽
熱いお湯を頭から浴びて、まとわりつく感情ごと洗い流す。
大丈夫、ただ戻るだけ。
いつも通り仮面をつけて、エースがいない日常に戻るだけ。
そう言い聞かせようと、心の中で復唱する。
……思わず唇を噛んだ。鼻の奥から、ぶわりと何かが溢れてきそうで…止められなくなりそうで。
(本当は……、、)
それと一緒になって、溢れそうになる心の奥の声。
…ダメだ。本心を、押し殺せ。
じゃなきゃ、海兵としてやって行けない。
何度も何度も、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
(…でも、なんのために、私は……)
不意に浮かび上がる素直な心が、自分の首を絞めてしまう。白ひげの船で、甘やかされて、私はこんなにも弱くなったのか。こんなにも、迷いを生じて、葛藤して、、
【君は弱さを断ち切るために海兵になった。なのに、エースに会ってまた弱くなった】
やめろ、なんで今更出てくる
死んだはずの、Dr.ヘイブンの声が頭にこびりついている。もう二度と、聞きたくない、お前の声なんか
【女であること。それ以上の弱さはない。君は、弱さを断ち切るためと言っておきながら、女であることを捨てきれずにいる】
わかってる、、お前の思惑通り薬に溺れて、惨めにもそれを利用した。お互いの気持ちを確かめもせず、ただ自分のエゴでエースを引き止めた。
そんなこと、言われなくたってわかってる……っ
シャワーの水が足元を流れていく。
瞬きの瞬間、忘れられないあの赤い光景に重なって、思わず顔を両手で覆った。
もう、やめてくれ
私の心を甚振らないで
はやく、はやく消えてくれ
私の中から、はやく。