第6章 折れた翼、落ちた羽
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あれからモモンガ中将は直ぐに戻ってきた。
「ヘイブンの遺体は確かに確保した。立ちに本部へ帰還する!総員、出航の準備をせよ!」
「『はいっ!』」
空がどんどん白くなり、日の出の近さを知らせる。久しぶりの仕事は、上手く体に力が入らなかった。
錨を上げ、船が進むと共に、帆が大きく張られる。ばさりばさりと翼のような音を立てて開く帆を見ていると、私の背中がやけにスッカラカンに思える。軽いと言うより、足りないと言った方がしっくり来そうだ。
「チエ、待たせたな。風呂の用意が出来だぞ。」
『ありがとう。助かる。』
モモンガ中将が出発してから、風邪をひくだろうと言って風呂を沸かしてくれた。共有の浴室スペースではなく、イスカの個室にあるシャワールームだ。それでも、風呂の時間ではないから、1人で沸かすのは大変だったろうに
申し訳ない気持ちを抱えながらも、再びイスカさんの部屋を訪れ、借りたばかりの服も脱ぐ。
シャワーのコックを捻り、浴槽に冷たい水を吐き出させる。次第にシャワーから湯気型立ち上り、準備万端の合図として受け取る。
『……っ、』
まだ、薬が完全に抜けた訳では無いのか、シャワーの細かな水圧を全身に受けて、ぴくりと肩が跳ねる
だめだ、思い出してしまう
初めてだった。あんなのは、、
薬のせいとはいえ、自分があんなふうに乱れるなんて思っていなかった。
……エースも、あんな顔をするなんて知らなかった。
思い出すほど、内側から胸を叩かれるのに、今はそれさえ思い出として閉まっておきたいと思ってしまう
誰にも、あんな顔をするエースを見せたくない。知られたくない。
なんて心が狭いんだろう…
勝手に逃げておいて、勝手に振り回しておいて、自分のものだけにしたいなんて
図々しすぎる
でも……
(……もし、エースが追いかけてきたら)
一瞬浮かんだ考えを、頭を横に振って振り払う。
やめろ、こんな考え。なんのために船を降りてきたんだ。こんな頭になる前に、離れなきゃと思ったんだろうが
私は海兵なんだ。
軍へ戻るんだ
しっかりしなきゃ