第6章 折れた翼、落ちた羽
通路では、早起きな下っ端たちが掃除を始めたり、材料を抱えた4番隊が行き来している。その流れを遡るようにして、2人は自室を目ざして歩く
「…うめえ」
「歩きながら食うなよい」
「懐かしい味でつい」
山にいた頃を思い出す。いつも自分たちが肉を取ってきて、チエが畑から野菜を取ってくる。チエが作る料理はどれも美味かったけれど、煮込み料理はチエの1番得意な料理だった
変わらず美味くて、優しい味。
俺を置いて消え去ったとは思えないくらい、優しさに溢れていて、胸が締め付けられる
(意味、わかんねェよ)
どうして何も言わずに船を降りた
せめて一言くらい、言ってくれてもよかっただろ
気づけばマルコを置き去りにして、空になった鍋を適当なところに置くと、歩幅がどんどん広くなって、次第に駆けだす
まだこの島にいるかもしれない。
その期待だけが、エースの原動力
食べ終わったばかりのチエの料理が、口の中に優しい風味を残して消えようとする。それすらも許し難いと思うくらい、今の自分はチエを求めている。
船の外に飛び出し、一気に砂浜まで炎と化して飛ぶ。火力がいつもに増して強いせいで、砂浜にのめり込むかと思った。
体勢を立て直すために砂浜に手をつくと、波打ち際に点々と残った足跡を見つける。本当にチエは降りてしまったんだ
海軍へ戻る。
いつかはやってくる運命だ。それはわかってる。わかっているけど、わかりたくない。
このまま一緒にいたらダメなのか?
海兵として戻れるかわからないのに
それに、あんなに脅えていたのに、また危険な所に身を置くのか?
(今度こそ、俺が守るのに)
夢中になって走る。
この点々と続く足跡の先にチエがいると信じて