第6章 折れた翼、落ちた羽
「この船に、もういない…ってことか……?」
信じられないというような顔で、サッチを見つめる。サッチはそんなエースがいたたまれなくて、何も言えなくなる
「お前の部屋にもいなかったし、医務室にもいなかったよい。大方約束を守って海軍へ戻ったんだろうよい。むしろ、海軍が近くにいて運が良かったよい」
マルコは、白ひげが娘としてチエを誘ったことを言わなかった。言ったら、誰も納得などしないだろうから
「そうだな、元々この島までの話だったし、海軍が近くにいるならチエは無事に戻れるだろうよ」
エースにも、自分にも言い聞かせるようにサッチは言う。この船で、素直に自分の作った料理を美味いという海兵に、情が移ったのだろう。でなければ、こんなに寂しいと思うはずがない
しかし、やはり1番ショックを受けているのは紛れもなくエース本人だろう
納得する大人二人に対して、心の中では燃え盛る意識が理性と格闘していた。
どうして、何も言わない?
どうして勝手にいなくなる…?
体を重ねたとはいえ、気持ちが通じあった訳では無い。けれど、少なくとも自分は、心変わりせず、あの頃と同じ気持ちのままチエを抱いたつもりだった
(チエは、何であんなことを俺に許したんだ…………)
一度抱いてしまえば、もう二度と離したくないと思うほど、立場も気にせず強く想い合うことが出来ると思ったのに
それは自分だけが感じていたことなのかもしれない。
好きで抱いたのに、それは独りよがりだったのだろうか
「…これ、貰ってく」
「ここで食っていくか?」
急に力のない声になるエースは、見てわかるほど落ち込んでいる。やはり心配せずにはいられない。大事な家族だから
「いや、部屋に持ってくよ」
「そうか」
けれど、エースのためにしてやれることはほんのわずか。今はそっとしておくしかないのかもしれない。
サッチは他の隊員が来たこともあって、仕込みを始めなければならない。エースもマルコも、それを解散の合図にして食堂を後にした。