第6章 折れた翼、落ちた羽
「エース、一旦厨房に来てくれ。確かめて欲しいものがある」
冷静さを取り戻したサッチは、真剣な顔付きでエースを厨房に連れて行った。マルコもそれについて行く。
厨房には、食堂を抜けて行く。食堂にはサッチが来た時には劣るが、いい匂いが未だに充満していた。
朝起きたばかりのエースには、堪らない匂いだ
厨房に入り、奥のガスコンロまで行くとそこから浅底の鍋を持ってきて、台の上に置いた。
「これ、食ってみてくれ」
蓋を開けると、トマトの煮込み料理が入っていて、野菜やキノコ、肉が入っていた。それを差し出すサッチはやけに難しい顔をしている。
それもそのはず。海上で料理を作るサッチにとっては、疑問の多いものなのだ
エースはスプーンで一口掬うと、ぱくりと口の中へ運ぶ。一瞬固まって、また一口食べる。
「…なぁ、お前が山にいた時、チエが料理を作っていたと言っていたよな…?」
サッチが、下から覗き込むようにして尋ねると、エースはスプーンを口から外したまま唖然とした
「……これは、チエの得意料理だ。俺も、ルフィも、みんな好きだったやつだ」
「間違い、ないな?」
「あぁ、間違いねェ、!!チエは、チエは何でこれを……」
エースの表情が、みるみる険しくなっていく。サッチは自分の推測を重々しく話した。
「仕込みのために厨房に来たら、もう出来てあってな。俺たちの味じゃねェとわかって…チエは義理堅いやつだったろ、だから、これを挨拶代わりに船を降りたんじゃねェかって」
2人が想い合っていることなど、一目瞭然だった。けれど、今まで立場を気にして、2人きりでいることはほとんど無かった。そんな末っ子隊長を、微笑ましくもむず痒く見守ってきたからこそ、昨日の夜は進展があったんじゃないかと期待していた。
実際、体の関係を持つところまで漕ぎ着けたようだったし、喜ばしいことだと思った。けれど、それが叶ったのにチエがいないんじゃ、残されたエースが不憫でならない
憶測で話すことすら、サッチには苦しかった。そしてエースの様子を見て、徐々に確信に変わりつつあるのが、余計に辛かった