第6章 折れた翼、落ちた羽
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最初に異変に気づいたのは、4番隊隊長のサッチだった。
船の台所を仕切る彼は、朝早くから仕込みのためにキッチンへ行く。
いつもなら、自分が一番乗りで他の隊員も続いてやってくるのだが、その日は食堂の扉から既にいい香りが漂っていた
不思議に思って扉を開けると、部屋中その匂いでいっぱいだった。まだ仕込みだと言うのに、俺より先に来て料理を完成させる程、せっかちな野郎がいただろうかと首を傾げた
しかし、肝心の厨房には誰もおらず、綺麗に洗われた調理器具と、まだ湯気の立ち上る浅底の鍋があった。蓋を開けると、誰かさんを連想させるような、真っ赤なトマト煮込みがふわりといい香りをさせていた。
匂いを嗅いだだけでわかる。これは4番隊の味じゃない。俺の隊の中に、こんな味付けをするやつはいない。
ふと嫌な予感がした。
もう一度蓋を閉めて、足早にエースの部屋へ向かう。
2人が戻ってきた時、様子が変だったがアイツに任せておこうと皆で決めた。俺は昼まで起きてこないに賭けたが、予想通りなら二人は一緒にいるはず
そっと扉を開けるが、エースの部屋には、誰もいなかった。
となると、チエの部屋だ。
もし、あの料理を作ったのがチエだったら、もうここには……
チエの部屋の前まで来ると、サッチの勇気は少し勢いを落とした。
自分の考えが、ただの勘違いだったらここには2人が寝ていることになる。そうなれば、もう何が起こっていたかなんて考えるまでもない。そこへ、足を踏み入れるのはかなり勇気がいるのだ。
どうしようかと迷った末に、サッチは頼れる長兄を起こしに行くことにしたのだった。