第6章 折れた翼、落ちた羽
「そうだ、白ひげの船にエースという男はいたか?」
『…っ!』
ギクリと思わず声に出しそうなほど、心の中で波風が立つ。
どうして、エースのことを聞くんだ
やっぱり気が、、あるのだろうか
『…2番隊隊長の、ポートガス・D・エースのことか?』
声が震えないようにするので必死だった。
表情だって崩さないように意識してるのに、引き攣ってしょうがない
「そう、そいつだ!元気そうだったか?白ひげの船に乗ったと聞いて、どうなったかと思っていたんだ」
『元気そうかは分からない。捕虜だったから、隊長格とは接点がなかったんだ。…で、でも、どうしてイスカさんが…』
エースのことを気にするの
あなたにとっても、エースは特別な存在なの……?
「アイツに七武海の話を持っていったのは私なんだ。以前から追いかけていたんだが、悪いやつじゃなくてな」
エースの話をするイスカさんは、楽しそうな顔をする。この人の中に、エースがいると思うと腹の奥がふつふつと沸騰しそうになった
可笑しい。こんな感情的じゃなかったのに
何にイラついているんだ、私は。
「あっ、こんなことを他のやつの前で言ったばっかりに、飛ばされたんだった。危ない、危ない」
海賊と一緒に逃げたなんて事実、そりゃあ人には言えない。だから失言で飛ばされたということにしておきたいのだろう。
『私にそれ、言っていいのか』
「だってお前は良い奴だから、別に悪用したりしないだろ」
会って、たった数十分でそこまで信じ込めるのが逆にすごい。いいやつにも程があるだろう。
そう思うのだけれど、憎みきれない。ドス黒い嫉妬が渦をまくのに、この人にそれをぶつけた所で何にもならないと理性が働きかけてくる。
じゃあ、この気持ちは何処にぶつけたらいいんだ。誰か教えてくれ
こんなにも天真爛漫な彼女に、叶うわけが無い。イスカさんもエースに会いたかったのかもしれない。会いに来たのかもしれない。
それを邪魔してまで一緒にいたいと思ったのに、何故かこうしてエースの元から逃げている。
結局自分が何をしたかったのか、わからなくなってきた。
私は、なんて面倒な生き物なんだ。