第6章 折れた翼、落ちた羽
部屋はイスカさんと同室を使わせて貰えることになった。服も貸してもらい、この島を出るまで残り数時間となった。
モモンガ中将たちが戻れば、この船は即本部へ帰還する。
「白ひげの船にいたんだってな」
『…無謀だった。1人で突っ込んで、今日まで生き抜くのがやっとだった』
私は捕虜として捕まっていた、という設定で話をする。白ひげの船でエースの顔見知りだから客分として乗っていたなんて、口が裂けても言えない。
「よく無事に戻ってこれたな」
『白ひげは無駄な殺し合いを望まない。だから、隙をついて逃げてこれた。それに、私のような小物は放っておいても害がないと判断したんだろう』
それは多分当たってると思う。取引だって、なんの信憑性もないし、白ひげにとって大した利益にならない。なのに、あの人は私を気に入って、しまいには娘になれとまで言ってくれた。
海兵としてでも、女としてでもなく、ただのチエとして認めてくれたような気がした。そう思ったのは本当だ。けれど、私は海兵で、白ひげの船には乗れない。……あそこで自分がただの卑怯な女だということも思い知らされた
あのままあそこにいたら、ダメだと思ったんだ
『だから…逃げてきた』
イスカは横目でその表情を見て、仮面の奥で揺らめく影に目を留める。海軍で生きていくためには、女という弱みを強みに変えなければならない。チエは、それを隠してしまうタイプなんだろう。隠していても、本心は仮面の隙間で見え隠れしていた。
「色々あって疲れただろう。本部につくまでゆっくりするといい」
『……いや、そうも言ってられない。今回の戦いの中で、六式を完全にマスターできたが、捕虜として捕まっていた分、体が鈍ってしまったから取り戻さないと』
せっかくリョウジュさんに作ってもらった、新作の武器も白ひげの船に置いてきてしまったし、体術だけでも完全な状態で航海に臨みたい。
その意志を伝えると、イスカさんも笑って了承してくれた。
「お前は、すごく真面目で熱心なやつなんだな!」
ぱあっと顔が輝く瞬間は、まるで少年のよう。スカルから聞いたとおりで、思わず頬が緩みそうになる
“いいやつ”
そのレッテルが、どうしてもエースと結びつく。
あんな醜態を晒して、逃げてきた癖に
やっぱり思い出すのは、ずっと追いかけてきた彼のことだけ
