第6章 折れた翼、落ちた羽
それから直ぐにモモンガ中将は探索班を結成して出発してしまい、船はまた静な夜を取り戻した。
「とりあえず、部屋を用意させます」
先に口を開いたのは、イスカさんの方だった。正義の文字が入った将校のマントを肩で着て、私の方に向き直る。
『いえ。お構いなく』
それをすんなりと私も断るものだから、イスカさんも次の言葉を探している。こちらも、何となく気まずくて何を言ったらいいのかわからない。
「…じゃあ、せめて着替えだけでも。」
『ありがとうございます。助かります。』
あまり遠慮するのは失礼にあたる。私は素直に頭を下げて、イスカさんの部屋に通してもらった
『お借りします。』
服を受け取り、海水と砂で汚れた服をそっと脱ぐ。あまり部屋を汚したくない。
「…あの、敬語を使って頂かなくても結構です。誤報とはいえ、あなたは今中将ですから」
着替え終わるタイミングで、イスカさんは私の背中にそう言った。
そんなこと、考えもしなかった。
自分の力は何も認められていないのに、空の権威を笠に着るつもりは無い
『いえ、、少佐という立場も仮でしたので、イスカさんこそ敬語使わないでください』
今は、イスカさんの方が立場は上。
気を回す必要なんてない。部屋だって個室を与えられているし、地方に飛ばされてから、ここまで彼女なりに積み上げ直してきたはずだ。
……イスカさんは正真正銘、自分の力を認められてこの地位にたどり着いたんだから
「なら、お互いやめよう」
『え?』
「仮でも少佐として任務に臨んだ以上、対等の立場だろう?」
ずっと真剣な表情で、こちらを見ていたのに途端に表情が明るくなって拍子抜けする。
さらにイスカは続けた。
「私は少尉という立場から地方へ飛ばされたが、数ヶ月でまたここへ戻ってこれた。お前がいなくなったからじゃない。私の実力だ。」
だから立場なんて気にするな。そう言いたいのだろう。
正直、こんなにいい人だと思っていなかった。スカルから話を聞いて、エースも認めるほど“いいやつ”なのは知っていた。けれど、心の隅ではそれを信じたくはなかった。
いい人だったら、素直に恨みをぶつけられない。そんな感情を抱いていた自分が、惨めで堪らなくなる
現に、今がそう。
『…わかった。本部までよろしく頼む。』
「あぁ、よろしくチエ」