第6章 折れた翼、落ちた羽
『失望などしません。それが私たちの仕事ですから』
正義を掲げる海軍が、人を騙し、陥れることが、モモンガ中将にとっては些か心苦しいのだろう
生憎、私には海兵がいいとか、海賊が悪いとかいう価値観は持ち合わせていない。
海軍も人間の集まり。
所詮は、私も海軍も、綺麗なままでは居られないのだ
白とは、全ての色を排除して成り立つ色。
それに染まるには、全てを排除しなければならない
……今の私には、それが出来るとは思えないけれど
白ひげの船に乗って、私情まみれになった自分が、実直に正義を想う中将の前では随分と汚らしく思えた。
『…報告したいことがあります。』
ようやく立ち上がり、それに合わせてモモンガ中将も立ち上がると、海兵の仮面をつけ直した。
『ヘイブンは、私が仕留めました。ここから、丁度島の反対側にある、羊小屋の崖で…奴を捕える術がなく、手をかけることになってしまいました』
海賊の手配書には、普通“Dead or Alive”(殺すか、生け捕り)と書かれている。
しかし大抵の海賊は、捕まり、インペルダウンに収容される。
正当な裁きを受けさせるためだ。
その中でも、ヘイブンは麻薬の知識があり、これまで一度も姿を見せなかったことから、海軍を掻い潜る情報を持っていたとされている。その実態を掴むためにも、奴の手配書には“only alive”(生け捕りのみ)と書かれているのだ
「構わん。お前の命があって良かった。優秀な部下を2度も失いたくはないからな」
『…申し訳ありません』
1度は中将の命令外の行動をし、殉職を報じられた身。彼なりに、私のことを心配してくれたらしい。
有難いし、まだ部下と呼んでくれることに、感謝の念しか浮かばない。
しかし監房から出ると、モモンガ中将は難しい顔をして言った
「今回は、ヘイブンの首という功績があるとはいえ、殉職した海兵が軍へ戻ることは異例だ。上が納得するとは思えない」
『…はい。それは重々承知しています。……もし、元の地位に戻れなくとも、また一から入隊し直すつもりです』
それに、確かめたいこともある。
どのみち、あそこへは戻らなければならないのだ
自分の、この体のことを知るために