第6章 折れた翼、落ちた羽
(……目が腫れぼったい)
一通り泣いた後は、心も体もからっぽになって、ぼんやりとしながら、ただ歩いていた
濡れた靴も、砂まみれになっているが半分くらい乾いた。服も髪も海の塩でべたべただ。
足だって棒みたいに力が入らないのに、体は心を引き摺って進んでいく
やがて、静かな港町にたどり着いた。
小さな港を占領しているのは、波に揺られながら静かに眠る見慣れた軍艦。
夜の警備は、いつにも増して静かだった
船の近くまで来ると、1人の見張りがこちらに気がついたようだった。
「止まれ!!何者だ!」
軍艦に近づく私を、不審に思ったようだ。
海兵なら当たり前か、そんなこと
『私は、海軍本部少佐 チエ・ルノウェ』
泣き散らした後で、声は少し枯れていたけれど、波の音で上手く誤魔化せたと思った
しかし、名前を聞いた海兵は、「何を言っている」と鼻で笑いながら、ランプをこちらに差し出した。
光の元へ入ってやると、今度は腰を抜かして悲鳴をあげる
そんな幽霊を見たような反応をしなくても
そうふと思って、思い出す。
そういえば私は殉職したことになっていたんだった、と
見張りの悲鳴に、何人かの海兵が甲板へ集まってきた。
ランプの照明だけでは足りないと思ったのか、ザワつく甲板から巨大なライトが点灯した
(……っ)
まだ、こっちは目の腫れぼったさが治っていないというのに
容赦ない眩しさに、思わず腕で目元を覆った
「本当だ、チエ少佐だ…!!」
「隊長!!」
「チエ隊長!」
どよめく声の中で、懐かしい声を拾う。
まだ、私のことを隊長と呼んでくれる者の存在を、どうして私は忘れていたんだろう
つくつぐ、白ひげの船で甘えていたことを認識させられる。
ハシゴを下ろしてもらい、船へ上がると、皆少し離れたところからこちらの様子を伺っていた。その先頭に、見なれた部下が2人ほど
「隊長…!」
「おかえりなさい、隊長」
班の中でも、よく指示を聞いてくれたガシュトルと話のウマが合うJの2人だった。
他の隊員が見当たらないところから察するに、私の班は解散したらしかった。私の与えられた立ち位置が特殊だったため、誰もその班を引き継ぐ人がいなかったとか