第6章 折れた翼、落ちた羽
荷物も何も持たずに、船の後方から闇夜に飛び込んだ
足を立てず、水飛沫さえ上げず
初めからいなかったように。自分の存在をこの世から限りなく消すかのようにチエは船をおりた
夜の海の冷たさも、暗さもどうでもよかった
ただただ、熱に浮かされてエースを求めた時間を思い出しては、我に返る
もうだめだ
戻れない
私が壊した
傍で眠るエースを見て、この時間は束の間なんだと悟った。目が覚めたら、エースが自分をどんな目で見るのか急に怖くてたまらなくなった、、
どんな顔をして会えばいいのかも分からなくて、逃げてしまった
海水を掻き分けながら、陸に向けて進むけれど、かくたびにのしかかってくる、水の重さ一つ一つが……まるで自分の想いみたいだ
振り払うことも、受け入れることもできず
重さと次第に出てくる疲労が、余計に心を疲れさせる
陸にあがり、もう船も見えないところまで走ると、チエは栓を切ったように泣き出した
子供のように、声を上げて泣いた
誰もいない海岸線に沿って、か細い足跡続いた
……どうしようもない気持ちでいっぱいだった。涙をこらえる事も、声を上げることも気にならないくらい、胸がいっぱいで。
あんなふうに、エースに触れられて頭がどうにかなりそうだった、
私を受け入れてくれたのかと、勘違いしそうになった。
嬉しくないわけが無い、でもあんな惨めな方法で手に入れたかったわけじゃない
私が欲しかったのは、体の繋がりなんかじゃない、、
自分でも、この気持ちをどうしたらいいのかわからない…っ、、
受け入れてしまえば楽なのかもしれない...
あのまま船にいたら、幸せだったのかもしれない、
周りは時間が経てば受け入れてくれるかもしれない、
エースもこの気持ちを受け取ってくれるかもしれない……
そんな自分の都合のいい妄想が湧き上がる度、期待しそうになる度、あの頃の自分が、語りかけてくる
こんな弱くて惨めな自分を、エースや、みんなに受け入れられたら、、海兵になった自分は一体どこへ行くのか、
強くなりたいと願った気持ちは、その程度なのか、と。
私の妄想は、自分で自分を否定することになるのだ。それに自分が、か弱い女の子だど認めることになる
余裕のない頭でも、どこか隅っこにその想いがあるから、チエの気持ちは余計に絡まった