第5章 カ タ チ
亡霊のように立ち上がり、ナースたちから借りた服を着る。無意識に手に取ったのは、体のラインが出るような際どいものでは無く、シンプルなシャツと黒のスラックス。ほぼ部屋着に近い服装だが、チエには着るものを意識するほどの余裕はなかった
取り返しのつかないことをしてしまった。
自責の念だけが頭の中でぐるぐると駆け巡る
エースは私のことを、薬に溺れて快楽を求める淫乱な女だと思っただろうか、
誰でもいいのだと思っただろうか、
……そう思われて当然の行動をした
分かってて、やった
きっと、失望された、、
後ろを振り返らないように、急ぎ足で後ろ手に扉を閉める
何も知らない顔で、ぐーすかと眠る姿を見ていたら、ここに残ってしまいそうで
……勘違いしそうになる
踏み出す足は重く、体の怠さを全部支えているような感じで、一歩一歩が重い。何も、考えないようにしたいのに、ずっと頭の中で葛藤の声が響き渡る。そうこうしているとチエはある場所へ辿り着いた
考えあぐねた据えに辿り着いた場所は、どの扉よりも大きく、ズッシリと佇んでいた。
…いや、初めから答えは決まっていたし、ここへ来なければならなかった。ただずっと、引き摺られるように悩んでいただけ
心は揺らいでも、この扉を前にしてしまうと、決心は鈍く胸の中心に固まった
コンコン
真夜中では、常に顔を見せる隊長たちも船員もいない。戦いは収束したのか、いつもより甲板は静かだ。
そのせいで控えめに叩いたつもりが、いつもより響いた気がした
自分の背より何倍も大きい扉は、招き入れるようにゆっくり開く
「……何の用だ、小娘」
目の前には、この世で最も強く、最も愛情深い男が1人。身を屈めるようにして、小さなランプを掲げた
『挨拶に、来た』