第5章 カ タ チ
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(あ、また……)
意識が浮上するにつれ、身体の倦怠感を感じる。
もう何度となく味わった、目覚めの恐怖
記憶を飛ばしていても、身体があの恐怖を覚えている…
体は重くて、だるい。頭も上手く働かない……
けれど、埋め込まれた恐怖という直感が、働かない頭より鋭く働く
きっと目を開けてしまったら、そこに奴はいるのだろう。あの綺麗な歯を見せて、笑っているのだろう
ああ、いやだと思っていても、一度意識が覚醒すれば嫌でも瞼は持ち上がる
しかし、ぼやけた視界にめいっぱい映るのは、薄ぼんやりと明るいオレンジの光
(あ、れ……)
予想だにしない、暖かな光に瞬きを数回する。
いや、暖かいのは光だけではない。肩の辺りに感じる、重みと温かさ
じんわりと肌を伝って、落ち着く温もり
静かに寝返りを打ち、反対方向を向いた
(エース……)
ぐーすかと気持ちよさそうに眠る彼を見て、ほっと息をつく。けれどすぐに、モヤモヤとした厚い雲が胸の上にかかった
……やってしまった。
薬のせいとはいえ、エースを引き止めたいが為に私は、、
........自分を、女であることを利用した
私自身の気持ちも、エースの気持ちも交わらないまま、身体だけ重ねてしまった
結果的に、イスカさんの所へ行かせずに済んだけれど、
私は、こんな卑怯な真似をしてまで引き止めたかったんだ…
記憶が飛んでいたら、どんなに楽だったろう
じわじわと胸を侵食してくる、後悔と何か
ツンと鼻先を刺激して、奥から雫が溢れ出そうになる。
あんなに女であることを否定しておきながら、結局ヘイブンの言う通りになってしまった
女であること、エースを好きでいること
それを諦めきれず、利用した
ものすごく、惨めな気分だ
……本当に、私は最低だ