第5章 カ タ チ
『……いっちゃ、やだ』
「…っ、」
ただでさえ、意識しないようコントロールしているのに、水の泡だ
熱で潤んだ瞳も、子供のようにわがままを言う声も、目を背けずには居られない、、
思わず口を真一文字に結んで、ぐっと喉を詰まらせた
今のチエには冷静な判断力がない。エースの表情が何を示しているのか、明確に分かりもせずに引き止めた。
ただイスカさんの所へ行ってしまう、と思い込んでしまったのだ
捕まえた手をきゅっと握り、自分の胸へ押し付ける
『何、してもいいから……おねがい』
エースの中で答えはすぐに浮かんだのに、声になる前に唇が塞がった
薄暗い照明の中でも、ハッキリと見える。ハッキリと感じる。
体が熱い
触れた箇所、全部が熱い
じんと痺れるような感覚が、しきりに襲ってきてチエはびくりと身体を震わせた
誘われるがまま、エースの手はチエの柔らかな胸へと吸い込まれていく
あんなにもダメだと言い聞かせていたのに、タガが外れると体は躊躇なく動いた
服の上からやんわり触れると、体は大きくしなる。何十倍にも感覚が引き揚げられて、全身で感じてくれているみたいだった
唇を重ね合わせ、その隙間で小さく呼吸をする。海で溺れている時の、あの苦しさを今も感じ続けている。息がしづらくて、身体がもがき暴れたいと叫び出す、あの感覚
内側から熱が溢れて止まない
もっともっと、と欲が深くなってくる。求められたことが嬉しくて、チエに触れられていることが嬉しくて
でもその反面、苦しくて。
俺が見たいのは、もっと喜んでいる顔なのに
苦しそうで、辛そうで
──心が、遠く感じる
触れているのに、全く届かない変な感覚にモヤモヤした
もっと強く触れたら届くのか?
優しくしたら届くのか?
(…お前は、女であることを嫌がるけれど、こうして甘い声で鳴かれると、俺はどうしようも無くなる、、っ)
1人で頑張ろうとするところも、頑固なところも、笑った顔が可愛いところも、こうして辛そうに喘ぐのも……
全部、傍で見たいと思うのに
海賊と海兵
それ以前に知らない間に出来た、境界線みたいなものが今となって障壁となっているような気がした