第5章 カ タ チ
思わず頭を抱えたくなり、意識が持っていかれそうになる。そんな時、タイミングよく聞きなれた通信音が意識を再接続させた
プルプルプル、ガチャ
「俺だよい」
[ジョズだ。大丈夫か、マルコ]
受話器の向こうから聞こえるのは、3番隊隊長ジョズの野太い声。その力強さに、意識を保ち直す
「何とか生きてるよい」
謙遜でも何でもなく、海楼石の弾丸はマルコ自身の命を奪いそうなほど、彼の体内で猛威を奮っていた
[相当な手練のようだな。今ナミュールが泳いでそっちへ向かった。すぐに着くだろう]
ナミュールは、8番隊の隊長で魚人族。泳ぎで右に出る者は居ない
エースが海に落ちた時、助けるのは決まってナミュールだが、この間エースが海に落ちた時は任務に出ていて不在だった
[船はあと何時間かで着く。そこから停泊させるのにちょうどいい場所は見えるか]
「それなら」
視界を左へ向けると、大きく出っ張った崖が数十メートル先に見えている。あそこならば崖の影になって目立たないだろう。
普段なら、船の大きさに構わず親父の名前があれば気にせず停泊させることが出来ていたのだが…
今は敵に情報を与えないことが最優先
停船場所を伝え、受話器を電伝虫の背中に置くと、ようやく一息ついた。
しばらくしてナミュールが現れ、状況を一通り説明する
「厄介だな、こりゃ」
「あぁ…最前線で戦いてェところだが、この“弾”を何とかしねェと無理だよい。俺とイゾウは即刻オペが必要だろうな」
医者であるマルコは、青白い顔ながら状況を淡々と話した。不死鳥の炎は治癒の力を持つが、体内に弾丸が残ったままでは、傷を塞いでも意味が無い。
しかも、不死鳥であるマルコがその弾丸を食らって、無力な状態だ
今は船を待つしか手立てがない。
船が来るまで体力を温存するしかない。
そんな状況を理解しているから、マルコもイゾウも船が着く頃までほとんど喋らなかった