第5章 カ タ チ
船が到着するまで、恐らくまだ時間がかかる。
俺とイゾウを生かして船に連れて行かせたのにも、何か理由があるはず。奴らの考えを読み、次を予測しなければ、船が着く前にやられちまう
幸いにも、奴らは俺たちの居場所を知らない。船がここへ来ているかさえ恐らくわかっていない
他にわかることがないか、更に情報を擦り合わせる
「こっちはマルコ隊長の指示通り、偵察隊を監視しながら合流を図っていました」
「その時に、何人か話の食い違いがあって、記憶も混同しているみたいでした」
「明らかに様子がいつもと違うやつが1人いて、そいつが変装する能力かと」
変装の能力者は俺たちの仲間に紛れ、情報を操作していた可能性が高い
そして俺たちが出くわした、狙撃手とチエの姿をした奴。チエの姿をした方は、情報操作していた変装の能力者に違いない
詳しい時系列まではわからないが、話を聞く限り同一人物で間違いないだろう。
もう1人の、精神を入れ替える能力者があの狙撃手だとしたら相当厄介だ……
狙撃手は普通、中遠距離で攻撃してくる。相手に姿を見られなければ、見られないほど有利。それに加え、精神を入れ替える能力者だとすれば、イゾウの体は奴さんが持っていることになる
人質も同然。
特に、俺たち家族の絆を持つ白ひげ海賊団で、仲間の命を盾にすることはすなわち親父や俺たちの逆鱗に触れることを意味する
ヘイブンはそれをわかってやっているように思う。全て計算のうちと嘲笑われている気分だ
「チッ、よりによって隊長2人もやられちまった…」
「全く、情けねぇ…っ」
歯を食いしばりながら、いつもより高い声が絞り出される。違和感はあるものの、滲み出る悔しさはイゾウのもので間違いない。
「喋んな、傷に響くよい」
とはいえ、状況は苦しい。
指揮を執る隊長2人が戦闘不能、しかも離脱状態にある。船がこちらへ超特急で向かってくれていることが、唯一の救いだが…
情報が操作されている以上、思っていた上に戦況は不利だ