第5章 カ タ チ
『……っはあッ!!』
海面からザバリと顔を上げ、噎せながらもすぐエースの顔を海上に出す
浜辺へ引き上げ、すぐに呼吸があるか確認した。
首筋はまだ暖かい。大丈夫、大丈夫。
不安を押し殺すように、半裸のエースを抱きしめる。じんと背中から腰にかけて痺れたが、そんなことはお構い無しに抱きついた
伝わる鼓動は、心臓が正常に動いていることを指し示す
大丈夫、大丈夫だから
無意識に自分の腕を摩ると、震えていることに気づいた。寒さからじゃない。これは、以前にも経験したことのある恐怖感。
前にエースが海へ落ちた時に無我夢中で海へ飛び込んで、寿命が縮まる思いをした
エースが、死んでしまうんじゃないかって不安で仕方なかった
大丈夫。
大丈夫だから
呼吸もある、鼓動も正常。気を失っているだけ
前だって、助かったんだ
大丈夫だから、、
「ぐっ、ゲホッ!ゴホッゴホッ!!」
『!!!』
突然思い切り水を吐き出しながら、上半身を起こして咳き込んだ。驚きと安堵がチエの胸の中を占める。
良かった、
その言葉が、心の底から溢れて仕方なかった。止まらなかった。
溢れていたのは、安堵の言葉だけじゃないと気づく。頬をつうっと伝う生ぬるい感触を感じて、それが涙だとわかる。
こんなに暖かい涙は、久しぶりに流した
『…………』
安心して、緊張の糸が切れてしまったのかチエは、糸が切れたように砂浜に顔から突っ伏し、倒れてしまった
「ゲホッ、ゲホッ、……チエっ、チエ!!」
そしてエースも同様に倒れたチエが、気を失っただけと気づくと、一息ついて、砂浜に寝転んだ
良かった。
2人の心を占めるのは、その言葉だけ。
ヘイブンの手から逃れ、訳の分からない現象が起きたが、何とか助かった
チエは己の能力を使い過ぎて、意識を飛ばした。エースを海から引きあげた時と同じように、こくりと眠ってしまう
意識を手放した理由を2人とも知らない。それでも、ただお互いの無事に安堵していた