第5章 カ タ チ
「テメェ…!!」
青筋を何本も浮かべ、鬼の形相をしたエースがそこにいた
「大犯罪者の息子が好きだなんて物好きな女だな。素直に認めなよ、本当は気持ちよくてたまらないんだろう?好きな男の腕に抱かれて、それだけで絶頂しそうだろう?」
「黙れッ、これ以上チエを……」
『……はな、せ』
自分の抗議の声より、ヘイブンの気味の悪い笑い声より、耳に馴染んだ声を拾いとって視線を向けた
『私に……触るな。
誰も、私に触るなぁああッ!!!!』
叫び声と同時に、チエの周りにエメラルドの電流が駆け巡った。視界がチカチカするほど、瞬く閃光を放ってチエを中心に、電流が発生していた
エメラルドの光は、真っ先にヘイブンの眉間を貫く
唖然とする光景に、エースは先程感じた電流はチエのものだったと不思議と納得した。
信じられない光景に変わりはないはずなのに、妙にすんなり納得出来てしまった
もちろんエースも例外ではなく、腕や足にビリビリと電流が駆け巡る。思わず反射で、チエを支えていた手を離してしまった
「チエッ!!」
真っ逆さまに、暗闇へ落下した。こちらを見上げた翡翠色の澄んだ瞳が、光っているようにも見えて、呼吸が止まる
「チエ!!!」
辛うじて出せた声で、精一杯叫ぶ
こんな目をするチエを見たことがない。強がっている時とも、怒っている時とも、どこか様子が違う
……怯えてる
まるで警戒心丸出しの動物みたいに、強い眼光の奥に恐怖の色が滲んでいる
怖いんじゃねェか、辛いんじゃねェか
なのになんでそうやって突き放そうとしてンだよ
気づいた時には、エースもチエを追って落下を始めていた
向かう先は真っ暗闇、能力者を嫌う海である。
……わざわざ辛い方に自分から行くことない。
怖いと思うなら、隠れていていい。向き合おうとしなくていい。お前が傷つくところなんて見たくねェんだ……、、
お前がお前を守らなかったら、誰が守るんだよ
頼むから俺にも、お前を守らせてくれ